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東川に移住した写真家の安永ケンタウロスさんが「水」をモチーフに選ぶ理由とは?

「地方創生の成功例」と聞くとみなさんはどんなまちを想像しますか?
ふるさと納税でたくさんの予算を獲得しているまちでしょうか?
あるいは、人口増加率が日本一のまち?
もちろんそういう「数字で分かりやすい成功例」もあるでしょう。
ですが、数字では計れない「ひとやまちのすばらしさ」もあると思います。
東川町は数字を超えた「ひとの魅力」がつながることで、まちの魅力がブーストされた稀有な事例として、今、日本中から注目を集めています。
数字では計り知れない…と言ったものの、あえて数字で語っても東川はすばらしい実績を誇ります。
東川の人口はこの20年で14%増加し、約8,000人の人口のうち約半数が移住者という構成。たくさんの人たちがこの街の魅力に引き寄せられてきたこと、もともとの住民の方々もそれを快く受け入れてきたことがわかります。そして移住した人々は、東川に溶け込み、新たな街の魅力の一つとしてさらに多くの人たちを惹きつける…そんな構造を持つまちが東川なのではないでしょうか。

今回、東川に移り住んだ魅力的な方々のお話を4回に分けてお届けします。最初はよく知られた広告や雑誌などで幅広く活躍する写真家の安永ケンタウロスさんです。

---安永さんが東川に移住されたきっかけをお聞かせください

移住したのは6年前なんですけど、その時は確信的な何かがあったわけじゃないんです。なんか流れで。

---流れなんですか?

元々、東京で活動中も地方ロケが多く都内にある自宅に居ないことも多かったので、当時、会社から独立していたこともあり、住む場所も東京にではなくてもという気持ちがありました。 3.11も大きくその気持ちに拍車をかけてました。 それで移住へ気持ちが動きはじめていたら、ご縁あり東川移住者キャンペーンの撮影に参加することになったんです。

---なるほどそこからなんですね

そう。でもその時は夏と冬に一週間ずつ滞在して、東川がいいところだというのはすごく感じていたものの、いろいろハードルもあってそこまで現実的に考えてたわけじゃなかったんです。

---ではどこから決心が生まれたんでしょうか

4月ごろ、先に考えていた九州でちょうど熊本地震があって、しばらく行けなくなったなという時期に家族で東川へまた遊びに行ったんです。ちょうど雪が溶けて道路がドロドロしてて、桜もまだ咲いていない頃でした。キトウシの宿泊施設のところの残雪で小3の長女が遊びながら「ここ住みたいなあ」って一言つぶやいたのを聞いてちょっとびっくりしたんですね。あ、いいんだって。そこからですね。

---それ大事なタイミングですね

その年の夏にまた遊びに訪れた際に、タイミングよく町の方から帰ってこいよ住宅という町営住宅の入居、受け入れ制度なるものを教えていただき、その旅行中に急いで東京を往復して住民票を移したりしてました。結果的には2ヶ月ぐらいで移住を決めてしまい大変でしたが、今はとても感謝しています。

---写真家の安永さんから見た東川の魅力ってなんですか

ここでロケをやったり他の企業さんの仕事をしている合間や待ち時間に勝手に好きな写真を撮りに行ったりするんですけど、気がついたら水の写真が多いんですよ。無意識なんですけど。

東川は旭岳をはじめとした大雪山連峰が蓄えた豊富な湧き水で知られ、町の上水道がなく各家庭でもそのミネラル豊かな天然水を生活に使っている全国でも珍しい町です。

その清涼な水によって自分も研ぎ澄まされていく感じがするんです。その水のお風呂に入ってるときも「あー、水に還ってきたな」と思うし。結局、東川に来たのも水に導かれてたんだなと思いますね。

---人はどうですか?

北海道の人ってほぼ移住者じゃないですか。もともと他者を受け入れる文化があるところだと思うんですけど、その中でも東川は独特の許容範囲があるというか、適度な距離感がある気がします。あまり干渉はしないけど、なにかあるとさっと助けてくれるとか、みんな自分のできることをやってあげたいとか。
それも僕の持論では同じ水で繋がっているからなんじゃないかと思ったり。情報の流れのように人の気持ちが水になって循環しているような不思議な感じです。それがあふれることもない。

---松岡東川町長がおっしゃる「適疎(*)」に通じるちょうどいいバランスですよね。いろいろな方々から東川のことをお聞きしていると面白い出会いがたくさんあるイメージです。

*適疎とは・・・ゆとりのある空間を重視し、過疎でも過密でもない、「適当に疎が存在する町」=「適疎」という考え方

そうなんですよ。誰かに繋がるとまたその人が別の人を繋いでくれるみたいな繋ぎ上手な方がいっぱいいます。
今のこの東川の8,000人くらいの人口がちょうどいいのかもしれない。僕の感覚だと町のみなさんの3分の1くらいの人たちは町のことを自分事としてとらえて考える癖がついてるというのもすごく感じます。町に対する思いが行政だけじゃなくてみんな持ってる。町に意見は持ってても押し付けはしないけど確実にみんな何か持ってる。
そこに移住者とか外から入って来られた方が触媒になって、表出するタイミングがあって「こういうことができるよね」みたいなアイデアが生まれたりするのが東川っぽいんですよね。

---これまでも私たちがよく目にする広告写真など印象的な作品をたくさん生み出されていますが、これから撮りたいものは何でしょうか

仕事だとプランを組みながら「ここをこう撮ろう」とか考えてるんですけど、個人ではあまり考えないようにしています。
昔からそうなんですけど、自分が撮ったものをコンタクトシートの一覧で見るじゃないですか。それを見て自分がいま何に興味があるとか、どんな精神状態だったか振り返る時間が好きですね。好きというかそれがセラピーになってるという感じです。
例えば普段あまり赤いものを撮ることは無いんだけど、後からそれを見ると「あー、なんかすごい生命感を欲してたんだな」と自己分析をしたりしていますね。

---撮ってるときはそこまで思ってない?

撮ってるときはほぼそういうことは考えてないんですよね。
今度2月に展示をやるんで写真を選んでるところなんですけど、やっぱりモチーフに水が多いんです。これも東川の自然の水が僕に循環してるのかなというのが、後からその写真との対話でわかったりしておもしろいですよね。

---ぜひ写真展も拝見させていただきます。ありがとうございました。


『 宇想夢奏  ~usou m usou~ 』写真展

会場:CURATOR'S CUBE
〒105-0003 東京都港区西新橋2丁目17−1 八雲ビル 3F
会期:2023.02.04[Sat.]- 02.12[Sun.]
開館時間:12:00~19:00      ※会期中無休  入場無料
製作協力: 岩野市兵衛、FLATLABO、竹尾ペーパー、紙の温度、TETOTETO、Wajue washi-warx
デザイン: 三澤遥、水野真由 (日本デザインセンター 三澤デザイン研究室)
会場構成: 村山圭 (virt.)

インタビューでお借りした場所はこちら、東川の家具に囲まれた素敵な空間の「東川スタイルカフェZen」です。
https://www.instagram.com/cafe_zen_higashikawa/


【プロフィール】

安永ケンタウロス
写真家

フィリピン生まれ。
株式会社アマナ入社。2015年、フリーランスとして活動。2020年、kKkK inc.設立。
広告をメインに雑誌や書籍の撮影も手掛ける。交通広告グランプリ、サインボード優秀作品賞を受賞。日経産業新聞広告賞 情報・エレクトロニクス部門賞。日経BP広告賞優秀医療広告賞。毎日広告デザイン賞 優秀賞。 D&AD In Book賞など、受賞多数。

これまで手掛けた作品集に、『デザイン物産展ニッポン』『Sony Design:Making Modern』『GAJOEN』『iro』など。
2018 『北海道の欠片たち』グループ展 (mont bell salon)
2019 『old new』グループ展 (東川町)
2020 『 水辺の記憶 』展 (SUNDAY Gallery)
2022 『 Memory of waterside ~水辺のポートレート~ 』展 (北の住まい設計社 K’s Gallery)

上質な質感と静謐な世界観が持ち味。東川町と東京の二拠点で活動中。コマーシャルの世界で培った技術と感性で新たな世界の捉え方を自身の展示や広告などで発表している。
新たな表現の幅を広げるため8x10での作品制作等、精力的に活動中。

「東川のひとびと」シリーズ第2弾はこちら


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