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学生が仕入れから接客まですべて担うセレクトショップ「アナザー・ジャパン」の2期目がスタート!最初の1年でどんなことを学んだのか?

2022年8月にオープンした東京駅の近隣に位置する学生主導の地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」は、2か月毎にフィーチャーされる地域が変わり、1年を通して各地方の厳選された特産品が販売されます。この店舗では、仕入れ交渉から店舗運営まで、その地域にゆかりある学生が主体となって行います。今年はこのプロジェクトが2年目となり、新しく参加する2期生が業務を引き継ぎます。8月9日には、1期生から2期生への引継ぎ式が行われ、その模様を取材させていただきました。取材においては、先代の1期生、新たに参加する2期生、そしてプロジェクトを運営する中川政七商店の関係者にインタビューを行い、1年間の学びとこれからについて伺いました。(文・写真/QUMZINE編集部・永井公成)


引継ぎ式では、テープカットも

大学生が商品の仕入れから販売、店舗経営まで幅広く担当し、本気で商売を学び実践する「アナザー・ジャパン」。このユニークな取り組みは、これまでQUMZINEでも取材してきました。

2022年8月より2か月ごとに各地域出身の学生が出身地域の特産品を販売し、1年かけてすべての地域が終了しました。この8月からは新たなメンバーが2期生として店舗運営に取り組みます。2期が始まることに伴い、1期生から2期生への引継ぎ式が行われました。

引継ぎ式では、1期生、2期生からのあいさつの後、テープカットのセレモニーを実施。
8月9日からは2期生による「アナザー・キュウシュウ」として、九州地方の地域産品約350点がラインアップされます。

2022年8月に始まったアナザー・ジャパンの1期生による活動からは、地方企業への就職や大学での単位認定、地域事業者との商品開発、書籍出版など、様々な成果がうまれているとのこと。2期生は新たにデザイナー枠として3名の学生を採用し、コンセプトや世界観を表現するそうです。

また、学生の学びと実践を支える企業サポーターとして2期生では新たに商工中金など47社が決定しました(2023年7月末時点)。これらの企業はアナザー・ジャパンのプロジェクトに賛同し、学生の学びと実践を支えます。

「進路の選択肢が増えすぎて迷う」

引継ぎ式の後、個別取材の時間となりました。
これまで店舗運営をしてきた1期生、これから店舗運営を行う2期生、そして本部としてプロジェクトを運営してきた中川政七商店の方にお話を伺いました。

まずは、1期生として活動してきた長崎県出身で早稲田大学3年の山口晴さんにお話を伺いました。

ーー店舗運営をしてきて、どのような方がお客さんとして来られたのでしょうか。予想通りのお客さんが来たという認識でしょうか。

山口さん:はじめに想定顧客として設定していたのは、近隣のオフィスワーカーの皆様、それから地方の商品がお好きな方、そして学生でした。予想に近いお客様が多かったと思っています。ただ学生は思った以上にリーチするのが難しく、プロジェクトの認知を高めることができなかったので課題に思っています。近隣のオフィスワーカーの皆様や暮らしにこだわりのあるものを使いたいというお客様が中心になり、1年間営業させていただきました。

ーー1年間の活動を通じて、良かったことはありますか?

山口さん:良かったことはすごくたくさんありますが、一番は普通に学生をしていたら出会えない方とたくさん出会うことができたことです。第一線で経営者として活躍されている方から直接経営に関するご指導をいただけたのは何にも代え難い経験となりました。社会で働くということを経験する前にノウハウや仕事に対する姿勢を学べたのは自分にとって大きな成長のきっかけになったと思っています。すっごく難しかったですけどね。私は2期生にもサポートとして携わっていくので、これからもアナザー・ジャパンに携わるという意味ではまだまだ挑戦が終わった感じはしていなくて、これからも努力していきたいと思っています。
また、作り手さんをはじめとする地域の方々ともたくさん出会えたこともうれしかったことです。期待をしていただいている分、それに応えたいとか、せっかく商品を出してくれている分売りたいとか、その方たちのために頑張りたいというモチベーションにもなりました。

ーー反対に、難しいと感じたことはどんなことでしょうか?

山口さん:私自身が数字にあまり強い方ではなく、データ分析にもなじみがなかったので、数字に意味を見出す過程が難しかったです。また、売上を上げるためにたくさん施策を打ちましたが、それが100%は成果が出ず、失敗することもあるので、終わりが見えないように感じることもありました。
前例が何もないからこその難しさもあり、仕事のやり方や効率も大事ですが、最後はとにかく気合でたくさんやってみるというのが求められてそのあたりの難しさや大変さはありました。

ーー1年間携わってきて、この後の人生に役立ちそうと感じたことはありますか?

山口さん:仕事に対する姿勢や人とのかかわり方など、基本の部分で大切なことをたくさん教えていただいたので、それらがこれから社会に出るうえで役立たない場面はないんじゃないかと思っています。アナザー・ジャパンで学んだこととこれから経験していくことが必ずどこかでつながっていくんだろうなという感覚はすごくありますね。

ーーこれからどういう進路を歩みたいと考えていますか?

山口さん:それは最近一番訊かれて困る質問なんですけど(笑)、活動を通していろんな生き方や、働き方に出会ってしまったので、その中で自分がどういう進路を歩むかを考えたときに、選択肢が増えすぎて迷っています。アナザー・ジャパンの経験をしたからこその良い悩みだと思っているので、そこは思う存分悩んでしまえばいいかと思っています。アナザー・ジャパンの学生はそういう人が多いと思います。お世話になった事業者様のところに修行に行くとか、そういうご縁を大切にしながら新しい挑戦をしていく人もいるので、ここでいただいたご縁を大切にしながら自分の進路を考えていきたいです。

ーー最後に、現在お店に並んでいる商品の中で、おすすめするものがあったら紹介いただけますか?

山口さん:アナザー・ジャパンでご縁をいただいて自分でも実際にインターンにいった大好きな島の商品を紹介します。「KINOS」という鹿児島県の離島である下甑島の青瀬という集落で取られた橙で作られたシロップが激推しです。漢字で書くと「木の酢」となります。離島は物が届くのにすごく時間がかかるので、島にあるものを工夫して活用していて、島で採れる橙がお酢の代わりに使われていたことからこの名前がつきました。東シナ海の小さな島ブランド社が出している商品は、このほかにも商品を通して島の暮らしを知ることができる商品がすごく多く、商品の後ろのストーリーから地域の魅力を感じてもらえたらと思っています。私自身もう7本くらい飲んでいます。炭酸で割って飲むのですが、「木の酢」というくらいなので、酸味が強めです。この酸味が冷たい炭酸とマッチして夏にぴったりで大好きな商品です。

ーーこうして説明していただくと興味が湧いてきますね!インタビューにお答えいただきありがとうございました!


「自分の当たり前がそうではないことを知った」

続いて、2期生となる福岡県出身で青山学院大学3年の鈴木愛唯さんにもお話を伺いました。

ーーアナザー・ジャパンに応募されたきっかけはなんでしょうか?

鈴木さん:今住んでいる学生マンションからのメールで知りました。私自身が地元とのつながりを持てるインターンを探していて、経営を学びながら地域のアンテナショップの運営ができるという点に惹かれて応募しました。

ーー採用されてから日々注目することが変わったり増えたりしましたか?

鈴木さん:アナザー・ジャパンプロジェクトに参加している学生を「セトラー(開拓者)」と呼んでいますが、セトラー同士情報交換を日々行うことで、私自身が福岡県で体験してきたことが当たり前じゃないということに気付きました。当たり前じゃないことがこんなに身近にあるんだと感じたんです。それから福岡の暮らしについて歴史に基づいて調べるようになったと思います。

ーー鈴木さん自身はどんな役割を果たしていますか?

鈴木さん:私自身は経営者として企画展「アナザー・キュウシュウ」を担当しているので、仕入れの過程ももちろんですが、いかに売り上げを伸ばすかとか、まだ知られていない九州をいかに知ってもらえるかを考えています。

ーー活動を通じて、どんなことを学びたいと思っていますか?

鈴木さん:経営で言うと、周りを見る力が絶対的に必要だなと日々感じています。経営者は担当者がいても物事の全体のことを知っておかないといけないですが、能力と時間にはかぎりがあるので、そこを学びたいと思っています。また、インターンの経験を通して地元についても興味を持てたので、地元のもの作りについてももっと調べていきたいと思っています。

ーー難しさは感じていますか?

鈴木さん:4月から活動を開始していますが、アナザー・キュウシュウは2期生の1番手ということもあって試行錯誤の中で活動しています。限られた時間の中で、やる・やらないの選択をいかにうまくできるか、とか、学業の両立もすごく大変だということを感じています。でもやりがいも感じていて、毎日無我夢中で取り組んでいますね。

ーーどんなお客さんに来てほしいですか?

鈴木さん:「福岡だったら明太子やもつ鍋」というイメージを持っていらっしゃる方たちに来ていただいて、「実は明太子やもつ鍋以外にもこんな素敵なものがあるんだよ!」と新たな魅力を伝えたいと思っています。

ーーなるほど。今売り場で並んでいる商品で特におすすめする商品を紹介していただけますか。

鈴木さん:推したい商品があります。実際に今私も履いているのですが、「うなぎの寝床」さんのもんぺです。久留米絣という筑後の織り方で作られています。もんぺは昔のものというイメージが強いと思いますが、現代の生活にも溶け込めるような形にしているのがすごく魅力的です。実際に作っている方を訪問した時も、何百本もの糸を織機にかけて生地を作るという工程の多さに驚きました。手が込んで作られているところに感銘を受けて、推したいと思いました。

ーー多様なカラー展開で普段使いしやすそうですね!インタビューにお答えいただきありがとうございました!

新しい小売りの可能性を感じた

最後に、本部で学生の教育や運営を担当されている株式会社中川政七商店の安田翔さんにお話をうかがいました。

ーー1年間運営されてきて、学生のもともとの期待値と実態に乖離はありましたか?

安田さん:いい意味と課題的な意味で一つずつ話させていただきます。
いい意味では、学生たちは非常にしっかりしていて、お店を任せるのに心配がなかったです。もちろん、トラブルやミスはあったのですが、それに対してはオープンに報告・相談があり、自分たちで改善策を考えていて、問題を一つ一つクリアしながら店舗を進化させてくれました。
「フロンティアスピリットと郷土愛」というコンセプトで採用を行いましたが、それに見合った自立心と商品・地域への愛情を持って、店舗を成長させてくれました。この点は私たちの期待を超えてくれたと思います。
一方で、課題としては、まだ学生の個性、価値観、エネルギーを活かした施策が十分でないと感じます。一期生はビジネスの基盤作りに集中していたので、発展的な施策に関しては挑戦しきれなかったかなと。この点については二期生に引き継いで期待をしていきたいです。

ーープロジェクトの教育的価値について、どのようなことが提供できたという認識がありますか?

安田さん:本部として特に注目している点は3つあります。
1つ目は自立心です。プログラム開始時に「自ら知り、自ら決め、自ら立つ」という人材観を学生に伝えましたが、彼らの中でしっかりと育ってきたと感じます。最初は「これ、どうしたらいいですか?」といった受け身な質問が多かったのですが、終盤では自分たちで考えて決めるようになりました。ビジネスになった際の判断基準について体験してもらえたのも本当に良かったと思います。
2つ目は「郷土愛」です。学生たちは一人20社くらい地元企業を訪れ、その思いやこだわりを感じながら仕入れを行い、商品を販売させていただきました。人との出会い、商品との出会いを通じて、郷土愛が育まれていったと思います。
そして3つ目としては、ビジネスの楽しさと厳しさを感じてもらえたことです。自立心と郷土愛があるからこそ、ビジネスにおいても頑張れる。売上至上主義ではなくて、売上が地元企業の収益に繋がり地元が栄えることにつながるということを実感しながら彼らは働けていたと思うんです。そして、それだからこそ目標に届かない悔しさも感じる。この3点ですね。

ーー予想外に良かったことはありますか?

安田さん:学生からの発案で、任期終了間際に1年間の集大成として感謝祭イベントを行いましたが、多くのファンの方にご来店いただきました。そのときに、多くの方に応援していただけるお店に成長していたんだなと実感しうれしく思いました。
また、メーカーさんからも継続的に応援していただいたり、「次年度も声かけてね」とおっしゃっていただけるケースも多く、これも非常に嬉しかったですね。学生たちの行動の積み重ねで、メーカーさんと生活者それぞれにファンがついたことが一番の良い驚きです。

ーー本部メンバーの学びはどのようなものがありましたか?

安田さん:このプロジェクトを立ち上げる際、共同事業者である三菱地所さんが「新しい小売りの可能性を模索したい」とおっしゃったんです。「それこそが、三菱地所にとってのアナザー・ジャパンに投資する価値です」と。その前提で、ショップスタッフ自ら仕入れて自ら売るという通常は成立しないような店舗形態も、教育の側面を掛け合わせることで小売りとして実現できました。店舗がエネルギッシュに運営され、お客様の好奇心や郷土愛が刺激され、購買に繋げることができました。このサイクルが回る様子は、私たちも新たな学びと刺激を受けました。
また、いわゆる「Z世代」のマネジメントについて聞かれることが多いですが、世代論に関係なく本質は変わらないとも思えました。ビジョンに共鳴して自分たちで決定を下せる環境があれば、学生は自立して動けるし、僕たちの想像以上の活躍をしてくれます。中川政七商店が大事にしてきた「ビジョン経営」は、彼らの世代でもいきるし、今後ますます重要になる要素であると再認識できたことも学びのひとつですね。

ーー今後の学生さんの活躍に期待ですね!ありがとうございました!

まとめ

オープンから1年たち、2期が始まったアナザー・ジャパン。学生は地方に赴いてメーカーの方と交流し、商品の仕入れと販売をします。だからこそ、おすすめ商品についてもすらすらと手触りのある知識を語ってくれました。今年はどんな商品を教えてくれるのでしょうか。引き続き注目していきたいと思います。


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