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とことんお客様と向き合う1to1コミュニケーション ~ヤッホーブルーイング・井手社長と木村石鹸・木村社長に聞く、ファンを巻き込む共創型のブランド作りの秘訣~(2/3)

こんにちはフィラメントの宮内です(繰り返しますが、原稿を書いているのは超優秀な弟子の本田恵理さんです)。

さて、ヤッホーブルーイングの代表・井手直行さんと木村石鹸・社長の木村祥一郎さんの対談の中編です。「情報過多時代」において、企業と消費者を繋ぐコミュニケーションチャネルはますます多様化しています。従来のマス戦略が通用しなくなった今、企業に求められるのは一緒にブランドを共創していってくれる「熱烈なファン」の存在かもしれません。「熱烈なファン作り」のプロであるお二人による、試行錯誤や失敗談の数々はまさに学びしかありません。(取材・文/QUMZINE編集部、本田 恵理)

クレーマーをファンに変える対応

角:でもお客様との1to1のコミュニケーションって、正解がわからないですよね。

井手:本来、あえてクレームを入れる必要性って、あんまりないじゃないですか。それでもクレームをくださる方っていうのは、私のことは嫌いなんですけど、よなよなエールは好きな方なんです。
そういう方のクレームに向き合いながら、発信内容の癖や角を取って修正していくうちに、クレーム自体が減ってまいりまして。きっと、そもそも肌感が合わない方は、黙ってメルマガを解除されているんですよね。だから、落ち込むことがあっても、自分自身に「ショッピング・イズ・エンターテインメント」と言い聞かせていましたね。

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角:その時お客様に指摘された内容で、印象深かったものはありますか?

井手:お客様の中に、繰り返しクレームをくださった方がいるんです。ある日、メルマガで「能あるタカは爪を隠さない」みたいなタイトルでちょっと自慢話をしたら、「そんなことを自慢するあなたの話なんか聞きたくないです。身の程知らずですね」と言われて。「…すみませんすみません!」みたいな(笑)。

あとは大手のビールを皮肉って書いてしまった時にも、「大手のビールを好きな人もいるんです。何様のつもりですか?」「…すみませんすみません!」って。

当時の僕は、ただ愉快だったらいいと履き違えてメルマガを書いてたんですよね。その方は毎回そういうクレームをくださっていたんですが、それが徐々にメルマガの添削みたいに変わっていったんです。「この文章はこういう表現の方がいいわ!」みたいな(笑)。

木村:めちゃくちゃ親切ですね(笑)。

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井手:辛抱強く謝っていたら、途中からクレームがなくなって添削してくれるようになって、最終的に大ファンになっていただけたんですよね。「デキは悪いけど、こいつなりに一生懸命やってるんだな」ってことが伝わったんでしょうね。

角:マザーテレサの名言で、「愛の反対は無関心」というのがありますよね。クレームを入れるということは、関心があるっていうことですもんね。

木村:大手企業だと、直接のお客様とのやり取りって、すごいパワーがかかりますよね。その中の1人がファンになったところで、売上的にはどうなんだ、って一面があると思うんですけど。そういう辛さはなかったんですか?

井手:少しはありましたね。でも地ビールブームが終わって、いろいろやっても売上は増えないし、社員も辞めて、営業先からも門前払いで…まさにどん底で。そんな中で、インターネットで喜んでくれる人を間近で見た時に、「この人たちがいなくなったら、終わりだ」と思ったんですよね。そして逆に、「こういうありがたい存在の人たちが全国にポツポツ増えていったら、インターネットでうまくいくかも」という期待も感じて。底辺を何年も続けてきたからこそ、そう思えたんでしょうね。

あとは「1人を幸せに出来なかったら、大勢を幸せにも出来ない」って自分に言い聞かせてましたね。1人1人にちゃんと対応しよう、という思いが原点で。だからうちの顧客対応はものすごいレベルで、1人に対しての対応に当たっていますね。

「お客様に感動してもらうこと」への注力

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角:木村石鹸さんもその点はすごいんじゃないですか?

木村:僕自身があまり石鹸のことを知らないというのもありますが、基本的に仕事は全部現場に任せて、「自分で考えてもらう」スタイルでやってるんです。だから社員の動き方も、お客様が喜ぶことに注力しています。「儲かるか儲からないか」はあまり考えていないですね。1人のお客様にも時間をかけて対応しています。端からみると「時間かけすぎ」と思われるかもしれませんが、それが結果的に熱心なファンの獲得に繋がっていると思います。
ビジネス的な視点だけで、「その辺で止めとこう」と妥協するよりは、とことんお客様の立場に立って寄り添っていくスタイルを提唱した方が、従業員的にもそこまでやり切れることがうれしいし、お客様もうれしいですし。だからこそあまり、過剰に現場に口は出さないようにしていますね。

角:クレーム対応って、正直お金につながるかどうかが見えにくい部分じゃないですか。無限に時間がかかる可能性もありますよね。
そこを振り切って、なお「良し」と言えるのは、そうとう腹が据わってないと無理な気もするんですよ。「大丈夫かな?」とは思ったりはしませんか?

井手:僕は思わないですね。1件のクレームのメールに対して、2時間くらい返信にかかることもあるんですよね。それを数件やると、1日が終わりますよね。間に合わなかったら、持ち帰って夜中に書いたりとか。すると、そうしているうちに対応のノウハウが自分の身になるし、クレームが延々と来ることってなくなっていくんですよね。お客様が、こちらの意図をだんだんとわかって、応援してくれるようになるんです。やがては途中から、他のお客様のクレームみたいな書き込みにも、フォローしてくれるようになったりですとか。

際限なくクレームが来ることはないし、やがて途中からみなさんファンになってくれる。それをわかっているから、問い合わせがあった時には、「ここまでやってくれるの?」っていう、お客様の期待を上回る反応が出来るし、やろうと思えるんです。弊社には、「WOW対応」っていう文化があって、感動レベルの対応をしよう、っていうことなんです。

角:「WOW対応」っていいですね!

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井手:だから時間は際限なく使っていますね。事例としてよくお話しするのは、「南極観測隊に行かれたお客様」のお話ですね。弊社には「月の生活」という年間契約のシステムがあって、様々な特典がつく代わりに、一年間ビールを継続して飲んでいただく、っていう制度なんですね。でも「南極観測隊に選ばれたから、途中で解約させてください」っていうお客様がいたんですよ。「いつ行くんですか?」って弊社のスタッフがさりげなく聞いて。当日横断幕持って、成田までお見送りに行ったんですよね。お土産に、よなよなエールの詰め合わせをお渡しして。お客様は感動してくれて、南極でよなよなエールを撮った写真を送ってくださったり、戻ってこられた後も定期購入を続けてくださったりしましたね。

角:それはすごい!

井手:しかもこの対応は、僕に承認取って実施したわけじゃないんですよ(笑)。でもこれって費用対効果ではないじゃないですか。こういう対応を心掛けてくれるスタッフがいたら、きっとそのスタッフを通して僕らの商品を長く支持してくれるファンの方が1人ずつ増えていくと思うんですよね。スタッフがさらに感動レベルの対応をすれば、顧客満足度が高まっていくはず。だからお客様の対応には、時間やお金の制限も、何も決めていないです。

角:数字として見えづらくても、どういうことがバリューなのかが文化として出来上がってるんですね。

井手:まさに「WOW」をどれだけ作れるかですね。ユーザーコミュニケーションについては効率化はしないです。代わりに、製造面での自動化・効率化を心掛けていますね。顧客満足度の自動化や効率化は、出来るところ出来ないところがあるので。だから弊社で自負してるのは、「効率はひとまずいい。それよりも、顧客満足度を取ろう」というトレードオフに振り切っているので、他社が追随しようと思ってもできない価値なんです。マニュアルも何もなく、文化として我が社にあるものなので。一朝一夕の教育で身につけることはできない。

角:そのカルチャーは、どうやって根付いたんですか?

井手:原体験は僕のメルマガで、お客様の反応に一喜一憂していたところから始まっていて、今ではリアルのイベントに派生していますね。「究極の顧客志向」を体感するためには、自分たちがイベントに参加するのが一番なんですよ。そうすると、お客様が喜んでくれているかどうかがきちんとわかる。今では社員総出でやっていて、これこそが文化を根付かせるいい仕組みだと、わかってやっているところがありますね。

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木村:最初のイベントの企画時に、そういった意図はあったんですか?

井手:最初はなかったです。お金もなかったので、自分たちでやるしかなかった。けどいざやってみたら、目の前でお客様が感動していて、それを見ているスタッフも感動したんですよね。すると視座が上がって、仕事上の使命感が生まれるわけですよ。「これは、社内みんなに体感してもらった方がいいよね」ってことになってきた。「顧客志向」ってよく聞く言葉ですが、口で言うだけじゃなくて、自分たちでやってみて初めてわかるんですよね。分業化しているところや、大手企業だとなかなか出来ないことだと思います。

角:やっぱりみんな、費用対効果を考えちゃいますよね。でもやってみると、社員の大きな学びにもなるってことですね。

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【プロフィール】

【株式会社ヤッホーブルーイング】井手 直行

井手 直行(いで なおゆき)
株式会社ヤッホーブルーイング  代表取締役社長

1967年(昭和42年)生まれ
ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブーム終焉の後、再起をかけ2004年楽天市場店の店長としてネット通販事業を軸にV字回復を実現。2008年より現職。フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れ、現在まで15期連続増収増益、クラフトビール国内400社の中でシェアトップ。『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションに、新たなビール文化の創出を目指している。著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)

■ヤッホーブルーイング公式Twitter
https://twitter.com/yohobrewing

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木村祥一郎 (きむら しょういちろう)
木村石鹸工業(株) 代表取締役社長

1972年生まれ。1995年大学時代の仲間数名とIT企業を立ち上げ。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月、家業である木村石鹸工業株式会社へ戻り、2016年9月、4代目社長に就任。

自律型組織を目指し、稟議書の廃止や「自己申告型給与制度」の導入、社員自らが組織づくりを行う「じぶんプロジェクト」等、様々な施策を通じて組織改革を行っている。
事業では、OEM中心の事業モデルからの自社ブランド事業への転換を進め、石鹸を現代的にデザインしたハウスケアブランドを展開。2020年より三重県伊賀市での新工場「IGA STUDIO PROJECT」の稼働も開始。

■木村石鹸公式Twitter
https://twitter.com/kimurasoap


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