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アクセラレーターの役割は「足りないパーツ」をはめること。

日本初のアクセラレーターとして知られるデジタルガレージのOpen Network Lab(以下、オンラボ)が、ピッチで人を動かすためのノウハウをまとめた書籍Pitch ピッチ 世界を変える提案のメソッドを2020年7月27日に発刊しました。これを記念して、デジタルガレージの松田信之さんと旧知の仲でもあるフィラメントの渡邊貴史がZoom上で対談を実施。前編となる今回は出版の経緯やスタートアップにおけるアクセラレーターの役割、ビジネス創出で行うべき「インタビュー」についてお聞きしました。(取材・文/QUMZINE編集部、永井公成)

シードからレイターステージまでサポートするオープンネットワークラボ(オンラボ)

ーーお二人は旧知の仲と伺いましたが、松田さんは現在デジタルガレージではどういったお仕事をされていますか。

松田:Open Network Lab推進部の副部長をしています。5つのプログラムの全体統括と投資、プログラムが終わった後のハンズオンの統括をしています。プログラムは、シードアクセラレーターの他に、テーマ軸と地域軸で2つずつあります。

テーマ軸では大手デベロッパー・ゼネコンと一緒に住まいや街づくりに関するPoCを実施する『Resi-Tech(レジテック)』、製薬会社や機器メーカーなどと一緒にヘルスケア分野を対象にした『BioHealth(バイオヘルス)』があります。

地域軸では北海道と福岡があります。
北海道では、起業からシードまでを支援するアクセラレーター、福岡では地場の大手企業を中心にスタートアップと一緒にスマートシティの社会実装を目指した取り組みを行なっています。

オンラボ本体と北海道はどちらかというと立ち上げ直後やプロダクトができていないところの成長を担い、Resi-Techと福岡はその後のすでにプロダクトをリリースしているようなレイターステージのスタートアップも対象としていて、オンラボ全体としてオールラウンドなステージでスタートアップの成長を支援できる構成になっています。

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渡邊:去年支援していた企業が偶然レジテックに応募していて、相談させてもらったこともありました。

松田:結構多いんですよ、うちの投資先で渡邊さんが絡んでいたりするの(笑)。いろんなところで出てくる感じで。

渡邊:Locariseもオンラボができた頃の企業ですからね。
(※Locariseはオンラボの第7期プログラムで特別賞を受賞。)

松田:簡単にオンラボの説明をしましょう。オンラボは2010 年に立ち上げたんですが、「日本初のアクセラレーター」と言われています。年に2回プログラムを開催していて、今年で21回目となります。110社以上のスタートアップが巣立っていて、15社がイグジットしています。去年上場したギフティ、楽天に買収されたフリル(現ラクマ)、エイチームに買収されたQiitaがあります。最近よくメディアや広告で目にするスタートアップだと、Smart HR、Spectee、WHILLなども卒業生です。

我々がやっていることはシンプルで、採択して3ヶ月の育成をするというものです。特徴は採択したら最大1,000万円を即投資することです。エクイティ出資なので、プログラム期間中コミットすればいい、というわけではなく、卒業後の支援も重視しています。

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『Pitch』は10年培ったオンラボの「秘伝のタレ」

松田:今回出版した『Pitch ピッチ 世界を変える提案のメソッド』は、オンラボで10年間培ったいわば「秘伝のタレ」であるアイデア検証、課題検証、ソリューション検証、そしてピッチのメソッドを掲載しています。ちょうどオンラボが10周年を迎えることもあり、何かやりたいよね、と社内で話していたところに、出版社さんと書籍企画のお話しができ、今回の出版につながりました。

ーー社内の人から見ると当たり前だと思っていることでも、社外の人から見るとものすごく価値のあるものだったりしますよね。

松田:おっしゃる通りで、社内では「こんなの喜ぶ人いるの?」「当たり前のことしかやってないしなあ」という議論もありました。例えばピッチのメソッドは、自分たちの目線だと、スタートアップ界隈ではよく知られているシリコンバレーのベストプラクティスを環境やトレンドに合わせてチューニングしているのですが、一般のビジネスマンからすると元になっているベストプラクティスにも馴染みが薄いこともあって、とても新鮮味があるようです。

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足りない部分をアドバイスでサポートするのがアクセラレーター

ーーシード期のスタートアップに足りない部分と、それを支援していくアクセラレーターの役割や価値とは何でしょうか。

松田:スタートアップは何かに突出している分、何かが足りないことが多いです。原体験から始める人は、思いは強いもののそれを外に説明する言葉が足りないことが多いとか、ビジネスモデルを組み立てきれていないことが多いです。そして、逆に何かを事業を立ち上げたいと思って起業した人はまだ事業に結びつく課題の把握が甘くて、事業の中身がまだ薄いことが多いのでより深い課題を見つけて事業内容を深めるサポートが重要です。

スタートアップの特にシード期は少ない人数で人件費もあまりかけずに走り始めるので、人材は足りなくて当然です。それぞれのスタートアップが足りていないパーツをはめてあげるのがアクセラレーターであり、スタートアップ支援で重要なところです。

渡邊:スタートアップで最初期に揃う人はCEO、CTOです。CFO、HR、リーガル、PRあたりまで雇うとなると、付帯コストが大きくなり過ぎます。そこで、インキュベーターやアクセラレーターが欠けているところをアドバイスベースでサポートするのが一番の肝。これに加えて、外部とのリレーションも弱いので、お客さんを広げるために、サービス/プロダクトに合ったファーストユーザの目利きまでを行い、それで初めてスタートアップが全方位で戦えるようになります

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松田:CFOはわかりやすいでしょう。CFO人材は一般に人件費が高く、人材の獲得に1,000万円を超えるようなお金が必要なこともあります。小さい会社だと日常業務ではCEOがCFO業務を兼ねられるので、CFOの仕事は資金調達が中心となり、必ずしもフルタイムで在籍している必要はありません。例えば、2,000万円を調達するのに1,000万円のコストをかけていては本末転倒になりますよね。

渡邊:投資銀行やコンサルティングファーム、オーディットファーム(監査法人)出身の人はコストが高すぎるので雇うのは難しいですしね。調達にしても、エクイティ(株主資本)とデット(負債)では全然性質が異なりますし、慣れている人とそうでない人で時間の掛かり方なども変わってくるんで。ただ、スポットでは必要なんですよね。

松田:一方で、スタートアップのファイナンスは、事業計画の作り方や事業の評価に独特なところがあり、そういうスタートアップならではの世界観を理解した上で資金調達していかないといけないので、経験のある人からの支援が重要です。

渡邊:ビジネスモデルと技術がちゃんと繋がり、人件費コストと組み合わさった、「オペレーション」「採用」「事業戦略」の三位一体で語れないとスタートアップの戦略は筋が通りません。これらを着実に積んでいった後に投資家は出資額を決め、その上で出資比率のすり合わせという流れになります。最終的にどのくらいの額でIPO、イグジットするのか、それらが投資対効果(IRR)として合うかを話せる人をCFOとして雇うとすると1,500万以上かかってしまいます。ただ、ある程度CEOも理解して、語れる力も必要になってきています。特にアーリーのタイミングでは。そして、足りない部分はアクセラレーターやインキュベーターが知恵を提供し、必要であれば交渉の場に同席して、スタートアップをサポートする必要がありますね

松田:これが意外と文献に載っていないんです。法律の話とか契約書の話はありますが、ここまでの話のようなことを事業計画書に落とし込めるメソッドはまだ「秘伝のタレ」のようになっていて、経験者しか知らない話になっています。

渡邊:最近ではスマートラウンドプロフィナンスなど資金調達業務を効率化するSaaS系サービスがその辺りを固めつつあります。

松田:SaaSでできるようになっているものの、書類ができるだけではダメで、説明できる必要があります。書類ができても、そこまで理解しているCEOはあまり多くありません。

渡邊:そこがきちんと説明・サポートできるのがインキュベーターとアクセラレーターの価値だと思います。

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スジの良い課題の見つけ方

ーープログラムの中では、インタビューのやり方などのノウハウも注入するのですか?

松田:はい。僕らは、スタートアップがいう課題について、スタートアップの言葉ではなく、全てお客さんやヒアリングした人の言葉で語れるようになったらゴールだと思っています。自分たちのバイアスや意思が排除された状態で語れるようになることが重要で、Smart HRはまさにそういうパターンと言えるでしょう。

ーーでは、スジの良い課題を見つけるためのインタビューについて教えてください。

松田:インタビューは「①課題を見つけるインタビュー」「②コンセプトに需要があるか調べるインタビュー」の2種類ありますが、大企業の人はこれらを混同してしまいがちです。

まず、「①課題を見つけるインタビュー」は、一番最初の段階で、自分たちの商品やコンセプトを説明してニーズの有無を確認するのではなく、「今どういう生活されていますか」「その中で困っていることはなんですか」など、とにかく相手の困りごとを聞き出すことが大事です。あるテーマを投げかけたらインタビュー対象者が自発的にどんどん喋ってくれるポイントを探すことがゴールで、それが深い課題となります。

そして「②コンセプトに需要があるか調べるインタビュー」は、見つけた課題に対して解決策が合っているかを検証するインタビューです。なるべく具体的にサービス内容を見せて、さらに金額とセットにすることが重要です。

言い換えると、①はユーザーのことを知るインタビュー②はサービス案がユーザ-を満足させるかを確かめるインタビュー。だからインタビューの手法が全く異なります。

『Pitch』の105ページにも掲載されていますが、

「カスタマー・プロブレムフィット」の課題検証の段階(①の手法)
 ↓
「プロブレム・ソリューションフィット」の課題に対して解決策を考える段階(②の手法)
 ↓
「ソリューション・プロダクトフィット」の解決策がプロダクトに反映されているかの段階

と進みます。段階によってインタビュー手法も異なってくるのがポイントです。

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前編では、アクセラレーターの価値やスジのいい課題を見つけるためのインタビューについてお話しいただきました。後編では、お二人がこれまで見てきたピッチの中で印象に残っているものや大企業の社員が行うピッチの問題点と解決方法についてもお話いただきましたのでご期待ください。

2/2につづく


【プロフィール】

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松田 信之(まつだ・のぶゆき)
株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部長

東京大学大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するベンチャーを共同設立。卒業後、株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品/サービス開発に係るコンサルティングに参画。スタンフォード大学への留学時にシリコンバレーのスタートアップエコシステムについて学び、現在は株式会社デジタルガレージにおいて、スタートアップ投資およびアクセラレータプログラムを軸とするスタートアップ支援に携わる。


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渡邊 貴史(わたなべ・たかし)
株式会社フィラメント 取締役 COO 兼 CFO

日系大手ITコンサルティングファームや日米のコンサルティングファーム、日系PE、プレIPOスタートアップ等を経て、2019年6月よりフィラメントに取締役 COOとして参画。2020年2月からCFO兼任。 2019年5月より中小企業庁のスマートSME研究会委員。2020年7月より国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術経営アドバイザー / NEPカタライザー。 その他、スタートアップの顧問/アドバイザーとして複数社の経営戦略支援(事業計画・資本政策・資金調達・営業・採用・労務・広報の各支援)を行っている。

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