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「こんなに面白い時代はない」NEC PC、レノボ社長を退任した留目真伸氏が個人で会社「HIZZLE」を興した理由

やをらノートパソコンを、新宿のバーで取り出した。
元レノボジャパン代表取締役社長、留目真伸氏、46歳。
その目は居合抜きの剣士のようでもあれば、遊び道具にはしゃぐ子供のようでもある。
そして、自身のビジョンを語り出した。

【プロフィール】

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留目真伸(とどめ・まさのぶ)
株式会社HIZZLE ファウンダー / 代表取締役
7月1日より株式会社資生堂Chief Strategy Officerに就任予定
早稲田大学政治経済学部卒業。総合商社、戦略コンサルティング、外資系IT等において、代表取締役社長兼CEOを含む要職を歴任。マーケティング、新規事業開発、デジタルトランスフォーメーション、オープンイノベーションや共創をベースにした価値創造等、大局観・世界観に基づく、時代の感覚を鋭く捉えたストーリーの紡ぎ出しや、事業構想、人の能力を引き出す組織の設計・運営を得意としている。自らの経営者としてのスケールの拡大とともに、手触り感のあるプロジェクト、社会的な意味のある事業創出にもパッションを持って取り組んでいる。

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宮内俊樹(みやうち・としき)
1967年生まれ。早稲田大学法学部卒。雑誌編集者を経て、2006年ヤフー株式会社に入社。Yahoo!きっず、Yahoo!ボランティアの企画担当ののち、2012年より社会貢献サービスの全体統括を担当。2014年より大阪開発室本部長、2015年ライフラインユニットユニットマネージャーを兼務し天気、路線、防災のサービスを統括。2017年、オープンイノベーションユニットの責任者、Techbase VietNamの会長を兼務。現在はメディアカンパニーに所属


「0→1」だけでは社会的インパクトは生まれない

留目:自分の会社をやろうと思うんですよ。「HIZZLE(ヒズル)」という個人会社。昔から考えていた「会社人から社会人」っていうコンテキストと、そこから一歩レベルアップして、みんなが経営者になっていくんだよというストーリーで。「プロ経営者3.0」の時代に相応しい経営者マインドの土壌づくり。そういうことをやっていきたい.。

宮内:先日のQUMでもその話をされてましたね。「プロ経営者3.0 copyright by留目」って言ってましたけど(笑)。プロ経営者の話を聞いていると、新しい経営のあり方だなって気持ちになりますね。

留目:いまってほんとに経営者の時代だと思うんですよね。世の中の流れ、歴史観とか大局観から自分の信念みたいなものを定めて、そこから課題を定義して課題解決の仕組みを作っていくのが、まさに経営だと思うんです。昔のプロ経営者ってのは、MBAで習ったこととか外資系でやってきたことを使えばひととおり経営ができるんじゃないかみたいな感じでしたよね。でも、いまはそんなもんじゃないですよね。VUCAの時代ですから。

宮内:Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ) 、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)。まさにそういう時代ですね。

留目:0→1を目指すスタートアップも、もちろん意味のあることだと思うんだけど、それだけではスケールの大きな社会的インパクトは生まれない。いまってIoTでデータでみんなつながっちゃうので、スタートアップ一社ですばらしいものを作ったってみんなが買ってくれるようにはならないし。やっぱり共創ですよね、いろんなモノとモノがつながって全体のソリューションでビジネスをやらなきゃいけないし、それができて初めて本質的な社会的課題が解決できる。そういう意味ではスタートアップだけできればいいってわけではないし、逆に大企業の経営だけできればいいやってわけでもない。

宮内:両方が必要ってことですよね。

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留目:一方で、その2つは限りなく近づいてると思うんです。考えてみれば当たり前の話で、既存事業も再定義をしていかなきゃならないし、新規事業も作っていけなきゃいけない。新規事業を作っていくには社内だけでやるわけではないし、むしろスタートアップのことを分かってないといけないし。

一方でスタートアップだけやっていても、大企業とのアライアンスや、それらを動かす力、全体のソリューションの考え方、最終的に社会課題の何をどうやって解決していくのかっていう全体の構想がないとできない。いいプロダクト作りましたってだけでは課題は解決しない時代なんですよね。

宮内:そういう経営者ってまさに理想だと思います。一方で、世の中の流れから置いてきぼりになってる企業の方がはるかに多いですよね。

留目:ほとんどの企業が、そう動けていないですよね。そこがすごく大きな課題で。僕もいろんな方と、こんなプロジェクトを仕掛けていきたいねって話すときに、そのプロジェクトを誰にやってもらうかっていうことになってさっき話したような要件で考えていくと、それに当てはまる人ってなかなかにいないんですよ(笑)。いないのならば育てていくしかない、一緒に育っていくしかない。だとするとどうやって育てていくか、育っていくかを考えることが大事だと思うんですよね。

宮内:そういうVUCAの時代が、逆にチャンスだと捉えているのがワイルドですね。

留目:いや、ほんとにチャンスですよ。なんでもできるわけじゃないですか。こんなに面白い時代ってない。多くの人が経営者としてそのチャンスを実現することを目指していきましょうよってことになるんじゃないかな。そのためにはまず、会社人から社会人になるってのが第一ステップ。みんなが社会との価値交換を考えて生きていくようになって、興味の幅を広げながら副業・兼業もやってもらいたいし。いろんなことを考えながら社会と向き合ってまずは生きてみる。そうなったら次は、経営ですよね。社会が何を求めているのか、どうやって価値交換していくのかが分かったら、次は経営をしていかなきゃいけない。それは自分の人生の経営なのかもしれないし、プロジェクトの経営ってことなのかもしれない。みんなが「プロ経営者3.0」になっていくべき。

クリエイトこそ本来人間がやるべき仕事

宮内:それはレノボではやりきれなかった部分でもあるんですか?

留目:そうかもしれないし、レノボで12年やってきたのでそういう考えに至っているということかもしれないですね。パソコンの事業からスタートして、タブレットをやりはじめたりとか、スマートスピーカーとか、VRやARとか。社内に答えがなくなってきちゃってるんですよ。新しいテクノロジーがあるんだけど市場がない、買ってくれる人もいまはいない、でもなんとなくそれって世の中を良くするテクノロジーだってみんなが思っていて。それをどうやって社会に実装していくのか、誰の課題をどうやってビジネスモデルにして事業にしていくのかってのを、パートナーシップで、あるいはオープンイノベーションで作っていかなきゃいけないっていうことですね。

宮内:そこで会社の組織を変えたり、組織のマインドを変えたりって大変だったんじゃないですか?

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留目:トライ&エラーでしたね。100%できていたわけじゃないし、まあ基本はできていなかった。パソコンの会社も、パソコンっていう箱をつくる会社だって定義し続けるとダメになっちゃうんです。そうじゃなくてコンピューティングを普及させていく会社って位置付けにしていくことによって、やるべきことがたくさんでてくる。そのために新しい組織を作って新しいマインドセットで事業に取り組む人たちを育てなきゃいけないわけで。

すごく難しいテーマですよね。新しいことやろうとすると、既存のKPIもマネージメントシステムも通用しなくなるし、社内の嫉妬があったり、同調圧力があって新しいことをやりたい人が「絶滅危惧種」になってしまう。

宮内:その「絶滅危惧種」を社内から守るのって、ご苦労されたところですよね。

留目:それはもう経営がやらなきゃいけないことですよね。トップダウンで、守って行かなきゃいけない。やっぱり自らそこを育てていかなきゃいけないと思います。自分の会社が何をしていく会社なのかっていう定義をいかに信念を持って改められるか、世の中に本当に必要なものにできるかっていうのはすごく大事なことなんじゃないかと思うんです。いまはもう大量生産だけしていればいい時代じゃない。一方で、世の中にはまだまだ解決されていない課題ってのがあったり、テクノロジーの進化によって新たに解決できる課題がたくさんあるので、そっちに向かわないといけないわけです。

宮内:そこはトップの信念がないと動かない。

留目:本来的には新しいものを作っていくのが、将来的な人間のやるべき仕事だと思うんです。クリエイトしていく、ものをつくっていく、課題を定義して解決していくことを人間はやるべきなんです。むしろこれまでは不幸だったんですよ。そこに人間が労力をさけずに、工場労働や社内業務、パターン化されたこと、毎回同じような営業活動をやり続けるとか。それは健全じゃないんですよね。

宮内:AI脅威論っていわれていますけど、人間でないとできない仕事はたくさんありますよね。それを考えたり気づいたりするのが大事。

留目:振り返ってみると、レノボに入社したときからそういう気持ちはあったんだと思います。当時のIBMのパソコン事業はDELLやHP(ヒューレット・パッカード)に押されていましたが、なんとなくこの事業は世の中に必要なものだから絶対に残すべきなんだって信念があったんです。DELLやHPは当時はパソコンなんてコモディティだから誰が作っても一緒、だから安い方がいいに決まっているみたいな考え方。でもThinkpadは日本で研究開発されて生まれた製品だから、日本人のものづくり精神があった。誰だって洗練されたいい道具を使いたいものだし、日本のものづくりが欧米合理主義の大量生産で安い製品に負けるのはもったいないなと思ったので、チャレンジしてみたくなったんです。

宮内:そしてまた、新しいチャレンジに挑むわけですね。

留目さんの目に映るフィラメント

留目:日本ではなかなかユニコーン企業が出てこないっていいますけど、これからの時代は単独でいきなりすぐユニコーンになるわけではないと思うんですよ。昔の経営者に求められていたMBAで学ぶ内容はものすごい小さなパーツになってしまって、それとは違うスキルってのがプロ経営者3.0の要件だと思うんです。

宮内:それをこれから、みんなで考えていくという意味ではフィラメントが始めたQUMにも通じますね。あれも単発のカンファレンスというだけではなく、その後の仕組み、コミュニティとしても考えているんです。

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留目:QUMで『起業の科学』の著者・田所さんにお会いしたら、次の構想は「CxOの育成」だって話していました。結局いまの時代、スタートアップの経営者に求められることも、大企業の経営者に求められることも、垣根がなくなってきている。それを明らかにしていきたいし、育成していく場所、実践するプロジェクトがなきゃいけない。そういう意味では角さんがやってこられた共創・オープンイノベーションを通じて大企業も変わっていかなきゃいけないし、まさにそういう経営者を育てたい。

宮内:そもそも留目さんにはフィラメントって会社はどういう風に映っているんですかね。不思議な会社じゃないですか?

留目:不思議なんですよ(笑)。不思議なんだけど、誰もが求めていた感じがある。

宮内:フィラメントの事業を他人に説明するってのは難しいんですよね、悪い意味でもいい意味でも。自分たちが自分たちを定義していかなきゃいけない。

留目:でも確実にニーズはある。例えば自分はプロ経営者になりたいけど、経営者の型ってひとつではない。ある場面では自分が経営者やリーダーでいたいけれども、自分かプレーヤーになる場面があっても全然いい。それによって学べることもたくさんある。

宮内:自分の役割を自分で変えたり、定義したりできる。

留目:その方が幅が出てきて面白いし、フラットでいた方が楽しいですよね。違う業界、違う考え方を持ってる人って楽しい。角さんはそういうフラットさ、ポジショニングがいい。大企業寄りでもなく、スタートアップ寄りでもなく、むしろ課題そのものにフォーカスしているところが。なにかのコミュニティの色や思想が濃くなりすぎてしまうと違う人は付き合いづらくなってしまうから。うまいですね、うまいっていうか自然なんですよね。

(後編に続く)

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