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コロナ禍で大活躍の医療ITベンチャー「アルム」坂野哲平氏|2017講演アーカイブ 1/3

コロナ禍の医療業界で、テクノロジーの力を用いてめざましい活躍を続ける人がいます。医療ベンチャー企業・株式会社アルム代表取締役の坂野哲平さんです。アルムが開発した新型コロナウイルス対策サービスは、現在自治体にも導入され、市民の命を救うために活用されています。
今回は、2017年12月13日に大阪で開催されたTheDECKエッジセミナー「情報リテラシーの勝利 -ICT医療-」での坂野さんの講演を収録した貴重なアーカイブ記事を3回に分けてお届けします。

*本記事は、2018年3月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。

2017年11月21日、ヘルスケアをテーマにしたイベント「Smartphone and Beyond 2017 vol.3 」が東京で開催されました。
その時にご登壇いただいたアルム坂野さんの講演に感銘を受けた角が、「ぜひ関西でも!」とラブコールを送り、12月13日にTheDECKエッジセミナー「情報リテラシーの勝利 -ICT医療-」が実現。
更に当日参加できず「話を聞きたかった!」という声が多かったため、ご講演頂いた内容を3回に分けてダイジェスト版としてお送りします。

映像処理の会社からスタート

 アルム代表取締役の坂野と申します。

 私は現在、医療アプリの会社を経営しています。医療とITを組み合わせることが仕事です。もともとは全く異なる産業にいたのですが、「儲かるかな」と医療業界に参入しました。医療業界に参入して4年めの新参者ですが、面白い業界だなと感じています。

 会社を経営して17年になりますが、もともとはプログラマーでした。大学卒業時には就職活動をしましたが、面接官に偉そうにされるのが嫌でフリーターになりました。親には「何考えてるんだ」と言われましたが、アルバイトで貯めたお金で登記して会社を始めました。

 もともと何の理念もなく始めたので、とりあえずいろんな事業をやってみました。「宇宙戦艦ヤマト」のファンクラブ事業とか、20個くらい事業に失敗して、15億円ほどの赤字を作りました。

 15億円も赤字を出したら普通のベンチャーは潰れますが、中にはうまくいった事業もあり生き残ることができました。

 例えば、アパレルの通販サイトを月商5億円にもっていったりとか、韓流ブームに乗って、韓流スターのファンクラブサイトを作ったり、iモードの公式サイトを作って利益を出しました。こうした経験もあり、最近では「新しい地図」という、元SMAP3人のサイトの立ち上げにも携わりました。サイトの運営元も当社です。

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 そんな事業のトライアンドエラーをずっとやっていましたが、その中で事業として大きかったのが、映像配信プラットフォーム事業でした。その事業を売却した時に、7割の社員が売却先に移り、3割の約50人が残りました。売り上げはないけど社員は50人、という状態になってしまいました。これは何か新規で売り上げを作らないといけない、という状態になりました。

きっかけは薬事法改正

 リーマンショックの時も私は会社を経営していましたが、エンタメ業界にいると、不況のあおりをもろに受けます。売り上げがいきなり3分の1になるというのを経験し、不況に強い産業を探そうと考えました。

 きっかけは2014年11月にあった、薬事法の改正です。この改正で「医療機器プログラム」という枠が新たにできました。

 要するに、これから医療現場にもプログラムが入ってくるだろうという中で、一言でいうと「規制します」という法律の改正です。

 しかし、「規制します」というのは、言い換えれば「その規制の中でビジネスをやっていいよ」ということです。ダウンロードなどで配布する単体プログラムも、製造販売の許認可の対象になります。

 なのでポジティブに捉えよう、乗ってみよう、そこに全てのリソースを突っ込もうと考え、8割の社員を投入し、おそらく日本初の医療機器プログラム会社としてスタートしました。医療機器の製造販売業ではISO13485という品質管理の国際規格があり、まずはそれを取得しました。

 2015年4月に、第1種製造販売業の許認可を取り、同年7月に汎用画像診断装置用プログラム Joinの医療機器認証を取得しました。その2ヶ月後にはアメリカと、ヨーロッパと、2016年4月にはブラジルでも許認可を取ったんです。同時に製品開発も走らせて世に出しました。

 それまでは映像配信会社でしたので、いきなり医療の会社に変えるよと宣言したら、「殿ご乱心」って社員には言われましたが、まずは薬事法改正の2ヶ月後に、All Medicalからとってアルム(Allm)という名前に社名を変えました。

 また、それまでのミッションは「社会に対する文化貢献」でしたが、理念からミッションから全て変えました。それまでは文化貢献を掲げていた会社のミッションが、いきなり「医療費削減」になって、社員としては、「何を言ってるんだ社長は」という反応でしたが、今は反論する人もいなくなりましたね。

アルムが掲げる2つのミッション

 ミッションについては、実践可能なものにしようと考えました。

 1)各国の3%の医療費削減
 2)毎年100万人の命を救うこと

 医療業界全体だと市場が大きすぎる、その中で全部取っていくのは無理があるので、明らかに社会の役に立つことをやろうと考え、基本的には「超急性期医療」という領域だけに集中する、さらにその中でも、「脳卒中」と「心卒中」に絞ることにしました。

 世界では、毎年約1500万人が脳卒中または心卒中で命を落としています。6人に一人がこの病気で亡くなります。

 脳卒中は、一命をとりとめたとしても、右足が動かなくなる、話せなくなるなど、いろいろな後遺症が残ります。リハビリの原因になっている病気のナンバーワンが脳卒中であり、直接的な医療費の5%、またリハビリなどの間接的な医療費の5%を占めていると言われています。

脳卒中・心卒中発生からの流れを4つに分類

 脳卒中と心卒中は時間との戦いです。心臓が止まったら動かしてあげないといけないですし、脳の血管が詰まったら、血栓を抜いてあげないといけません。そこで、4つに分けて対策を練りました。

1)早期発見
2)トリアージ・救急搬送
3)専門医診断
4)病院内治療

 まずは早く見つけること、次に救急搬送の最適化、どうやって早く的確に診断するか、4つ目は治療ということで、その中で、それぞれITのソリューションを開発することにしました。

 まずは、どうやって早く的確に診断するかというテーマで、「汎用画像診断装置用プログラム Join」というアプリを開発しました。

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 基本的にはメッセージアプリです。医療版のメッセージアプリだと考えてください。

 日々の業務におけるコミュニケーションツールとして利用できるだけでなく、医用画像をJoinでリアルタイムに共有し、アプリ上のビューワーで開くことができます。Joinは医療機器認証を取得した医療機器プログラムのため診療に利用することができ、ドクター間のコンサルテーションに利用されています。

 基本的に夜勤で働いているドクターは、大きな大学病院でも一人か二人です。

 その中で、例えば新米のドクターだけという状況で、看護師さんから「患者さんの容態が急変しました、来てください」と連絡があった時に、これは行く必要はない、行った方がいい、場合によっては緊急にオペをする、その判断を行う際に、Joinを使うことによってリアルタイムに複数の上級医へ相談することができます。

 現在では、日本のみならず、アメリカ、ブラジル、台湾、ドイツ、スペインの6ヶ国で事業展開しています。直近ではペルー、コロンビア、中東5ヶ国でも準備中で、国ごとに戦略を策定しています。

 国内では保険適用にチャレンジし、日本初の保険収載した医療機器プログラムになりました。

参入の5つの条件

 この業界はビジネスチャンスはゴロゴロと転がっていますが、新規でやるには、なかなかハードルが高いというイメージを持たれており、「難しいんじゃないの?」という話をよくいただきます。

 基本的には誰でも参入できますし、「そんなことないんじゃないの?」というのが、最初のテーマです。

 もう少し具体的に言いますと、参入には5つの条件があると考えています。

 1)製品開発:もの作りへの拘り
 2)臨床研究:お互いのパートナー探し
 3)薬事・臨床試験(治験)体制・採用活動
 4)保険適用:データ収集と社会意義の訴え
 5)資金調達:遠回りせずに

 一つめは、結局は良いアプリでも医療現場で使われないとどうしようもありませんので、製品開発、ちゃんとものづくりを頑張りましょう、という話です。

 二つめは、良いものなら何でも良いというわけではなく、世界中で医療費をどうやって抑制するかというテーマがあり、医療サービスにも費用対効果が求められる時代ですので、その効果を証明するためのパートナーが必要になります。

 三つ目は、薬事上の臨床試験の体制が必要になりますが、大手製薬会社が持っているような大きな体制が必要かというと、そうではありません。今はどんどん規制が緩和されています。クラスIV(高度管理医療機器)というカテゴリーでは、例えば人工心臓やカテーテルといった本当にリスクが高いものもありますが、薬事担当者を一人採用すれば、品質管理体制ができるというのが今の世の中です。

 医薬品医療機器等法に基づく医療機器のクラス分類は、クラスIからクラスIVの4段階があります。

 医療機器プログラムの場合、基本的には人体へのリスクが高くなるクラスIIIから、行政の許認可の元で治験が必要だと言われています。既存の枠組みがあり、人体へのリスクが低い製品に関しては、治験は求められませんが、第三者認証機関による認証が必要となります。JoinはクラスII(管理医療機器)として認証を受けています。

 四つめの保険適用については、先ほど申し上げた通り、「医療現場で役にたつか」「医療経済上どれだけ費用対効果があるか」を証明する必要があります。また、日本の場合は公的保険制度があるので、それも踏まえた上でのデータ収集が必要になります。

 そして最後ですが、我々はご飯を食べていかないといけないので、資金調達をしますが、医療ベンチャーができてから、売却されるまでには8年かかると言われています。それがよくも悪くもこの市場の特徴です。

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*本記事は、2018年3月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。


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