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ソーシャルセクターのこれから~金融・行政・プレイヤーそれぞれの立場から考える~|NoMaps2023カンファレンスレポート

社会的利益と経済的利益との両立が叫ばれる今、「金融」や「行政」等の各セクターが“ソーシャル”に改めて向き合い直し、協働し合いながら両立を目指す営みが徐々に進んでいます。
本記事では、2023年9月15日、NoMaps2023で開催されたカンファレンス「ソーシャルセクターのこれから~金融・行政・プレイヤーそれぞれの立場から考える~」のレポートをお届けします。金融・行政それぞれの第一線で活躍するゲストとともに「金融・行政セクターはソーシャルインパクト創出のために何が足りていないか?これからどうするべきか?」を考えます。(文/土肥紗綾、写真/永井公成)

ソーシャルインパクト(social impact)
社会的影響力。特に、企業による社会との共有価値の創造(CSV)を通じて、社会におよぼす影響力を指す。

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自分なりのソーシャルインパクト

山田 佳介(以下、山田):本日は「ソーシャルセクターのこれから~金融・行政・プレイヤーそれぞれの立場から考える~」にご参加いただきましてありがとうございます。 金融・行政・プレイヤーといった様々な視点から、ソーシャルインパクトを拡大していくために何が足りないんだろうか?どうしていけばいいんだろうか?といった部分を考えていきたいと思います。

まずは自己紹介と「自分なりのソーシャルインパクトとはなにか」について教えてください。
モデレーターを務めさせていただく自分から自己紹介をさせていただきますね。山田 佳介と申します。一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム 経営企画部におります。普段は松江を拠点に活動していて、全国各地の自治体・高校とともに地域魅力化・高校魅力化をさせていただいています。

山田 佳介 氏(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム 経営企画部)

新田 信行(以下、新田):新田です。よろしくお願いします。肩書が40個ぐらいあるんですけど…その中の1つとして、一般社団法人ちいきん会代表理事をしています。全国の公務員・地域委員会など、地方創生に熱意を持つ方が集まる場でFacebookでは2800人の参加者がいて、全国に20の支部があります。他には、この前、古里さんと立ち上げた北海道コンパッションや北海道NPOバンクの理事もしていて、毎月2回ぐらい北海道に来ていて旅行貧乏になっています(笑)。

これまではみずほ銀行常務執行役員をやってて、一応、金融マンです。中小企業融資・事業再生・創業支援あたりのプロだったはずなんですけど、今はもっぱら社会的なこと、金融の中でも寄付に凝ってますね。
自分なりのソーシャルインパクトってのはよくわかってないんですけども、「世のため 人のため」、こんなとこでどうでしょうか。

新田 信行 氏(開智国際大学 客員教授)

古里 圭史(以下、古里):古里 圭史です。よろしくお願いします。 元々は新田さんと同じように金融をやってまして、飛騨信用組合という金融機関で12年ほど勤務し、役員を務めていました。地域金融に携わる前は、監査法人で公認会計士としてIPO業務や上場企業の監査をやっていました。

私も肩書が非常にたくさんあってですね…、今は岐阜県飛騨高山を拠点に株式会社リトルパークという会社をやっております。自治体の新しい公民連携事業のお手伝いですとか、私も金融をやってきましたのでファンドや基金組成のスキームを企画したり、運営のお手伝いなどをしています。北海道の東川町にも拠点がありまして、こちらでも自治体や民間のお仕事をさせていただいてます。 
先ほど、新田さんがおっしゃられたように有志メンバーで「北海道でいかにソーシャル領域に新しいお金の流れを作るか」という取り組みをするために、北海道コンパッションという一般社団法人を設立しました。ソーシャルの領域にお金を出せるファンドを作っていこうと思っているところです。

自分なりに思うソーシャルインパクトは、 単純にその行為自体が与えるアウトプットみたいなものだけじゃなく、その先の「社会のためにどんないい影響が及ぼされたか」「それによってどれだけ多くの人たちの意識変革に繋がったか」っていうのが非常に重要なんだと思いますね。

古里 圭史 氏(株式会社リトルパーク 代表)

仲田 亮(以下、仲田):広島から参りました。中国経済産業局の仲田と申します。僕は岡山生まれでして、大学時代は文学部で焼き物の研究をしていました。就職後は、経済産業本省への出向を経て、現在は中国経済産業局で中国地域のスタートアップ支援や地域インパクトスタートアップ・インパクト投資の支援や普及啓発に取り組んでいます。

地域でソーシャルな取り組みをしている場合にそれをスケールをしてみて、地域から日本全国ひいては世界にビジネスをお届けできるのではということで、J-Startup WESTという中国地域スタートアップエコシステム強化プランを始めているところです。

このプランで支援をさせていただく企業さんは現在審査中なんですが、この企業選定の基準として、経産省の制度としては初めて「インパクト」という文脈を入れてみました。
地域社会や世の中にとっての社会的課題解決のインパクトについて、応募される起業家の皆さんはどう思われているかというところを審査の基準の1つとしています。

自分なりのソーシャルインパクトについては、僕は経済を担当してる公務員なので、「町や地域、社会の問題を1パーセントでもビジネスの力を使って解決をしていく」という感じですかね。

ソーシャルインパクト創出に係る活動の中で大切にしてきたもの

山田:皆さん、自己紹介ありがとうございました。
クロストークの導入として、皆さんがそれぞれのお立場からこれまでのソーシャルインパクト創出に係る活動の中で大切にしてきたものについてお聞きしたいんですが、まずは仲田さんからよろしいでしょうか?
仲田:様々な志を持ったスタートアップやベンチャーの方とお話しする機会が多いんですが、たくさんお話しをするんですけども、やっぱりお話しした時にワクワクするのが大切だと思っています。ワクワクするって具体的には、課題を解決するための解像度が高くなっていて将来こうやって解決されるんだろうなってイメージができてワクワクするって感じなんですけども。そういう解決のイメージを感じさせてくれるビジネスパーソンの方とお会いすると、「その人を起点としていろんなソーシャルインパクトが起きるのかもしれないな」って感じる時がありますね。

仲田 亮 氏(経済産業省中国経済産業局 産業部経営支援課)

古里:ソーシャルだけではないかもしれないんですけれども、「ちゃんとコミュニケーションをとる」というのを強く意識して携わっていますね。社会の諸問題にしても、組織内の問題にしても、コミュニケーションの質や量に課題があるんじゃないかっていうのをこれまでの仕事を通じて感じてきました。
ソーシャルインパクト創出にあたってはステークホルダーがたくさん存在するので、コミュニケーションが重要になってくるかと思います。自分の役割としては、そのコミュニケーションを円滑にするという部分にあると考えていますね。

ちょっと抽象的なんですけども、僕が考えてるコミュニケーションっていうのは、単純な言葉のやりとりだけではなくてお金の流れっていうのも入っています。価値を受け渡すという意味では、お金の流れも重要なコミュニケーションの1つだと思うんですよね。お金の流れから・物の流れから・人の流れ…そして言葉のコミュニケーション。その辺りを注意して関わるようにしています。

新田: 肩書きで仕事をしないことですね。「銀行の◯◯部としましては〜」「市役所の◯◯課としましては〜」というのをまずやめる。それぞれが自分の個性を出すこと。そしてその個性がある人と繋がること、ですかね。

事業の広報活動が足りていない?

山田:最近は金融・行政ともに、ソーシャルインパクト創出のための新しい動きが出てきているなと感じています。 例えば金融ですと、コミュニティ財団、ファンドが立ち上がっていて、社会課題解決にお金が使われているような印象があるんですけども、その辺りについていかがでしょうか?

新田:金融って、「融資」・「出資」・「寄付」の3つがあるんですけど、3つ目の「寄付」が金融だってことは、あまり知られていなかったんですね。だから、この寄付の部分をもうちょっとなんとかしなきゃいかんなと思って、今、一生懸命、いろんなことやっています。
今、社会が必要としているのは「社会的金融」です。この部分が高度成長の中でかなり”経済的”金融に変質してしまっている。社会的金融における「共助」と先程の「寄付」が今の日本には徹底的に欠けているのでこの部分をやるしかないなと思います。

古里:十数年、民間の協同組織の金融機関で働いていて常に思っていたのは、「支援する先にちゃんと適切なお金が届けられたらいいのにな」というものでした。非営利の金融機関と呼ばれる信金とか信用組合であっても、ソーシャルの領域にはなかなかお金を届けづらい実情があるなというのをずっと感じていました。NPOや地域のために活動している任意の団体に対して、金融機関から融資といった形でお金を届けるのが難しいんです。じゃあそのNPOや団体がどうやって資金調達をしてるかっていうと、寄付・助成・行政からの受託であり、それで事業をまわしているというのが殆どなんですね。その方法だと毎年非常に資金集めに苦労されているなと感じていたので、民間金融機関からお金を届けられないなら、既存のお金の流れを少しだけ変えるか、新しいお金の流れを作れないかなと思っていました。

仲田: 「インパクト投資」は社会的な課題を解決しながら経済的な利益を追求する投資行動なんですけど、そういう領域は新しい発想や考え方をもとに生まれてきている手法なのかなと思いますね。

山田:ありがとうございます。金融のところで古里さんからは「地域でいい活動をしてる人に直接お金が届けられていない」、新田さんからは「社会的金融や寄付が足りないんじゃないか」ってことだったんですが、それって金融セクター側の課題でもありながら、同時に活動している側もアピールというか広報活動が足りてないんじゃないかと思ったりするんですが、どうでしょうか?金融の領域の立場から、もっとこうしたらいいんじゃないかと思われるところがありましたらぜひ教えてください。

古里: 金融機関時代にどうしたらいいかと僕も思いまして、実際に当事者の方々とコミュニケーションをとったりしたんです。当時は広報活動であったり、予算があればこういう活動をしていい効果を生みますということをちゃんというべきじゃないかと思ってました。
で、実際自分がそういう社団法人や財団を作って、NPOさんなんかをお手伝いしていると、「いや、そんな余裕ないな」っていうのが正直な感想です。資金が潤沢じゃない状況で、自分たちでお金や労力を提供しながら活動しているのがほとんどだと思うんですよ。 人的余裕もない中でまずやらなきゃいけないことは、まさにその目的にしている事業であるはずなんです。でも広報をやらないとお金が貰えない…という感じで、鶏が先か卵が先かというところをぐるぐる回ってるような感じがしますよね。

「深い繋がり」と「広い繋がり」

新田:やっぱり、まず人と人との繋がりなんですね。これには2つの繋がり方があって、「深い繋がり」と「広い繋がり」の両方が必要なんです。
「深い繋がり」はそれぞれの地域での対面での繋がり。これは実際に人や物を動かします。「広い繋がり」はSNSやZoomなんかを通じた繋がり。先程お話した、地方創生に熱意を持つ方が集まる場でFacebookのグループには2800人の参加者がいます。こういうものを使わない手はないよなあ。

僕は徹底的な現場主義です。全員が動かないとダメ。 みんなが動いてるということを前提に、動いてる人同士が共感を持つ。「深い繋がり」と「広い繋がり」の合わせ技だと思います。
まあでも、10年前と比べたら変わりましたね。この5年の間でも変わったような気がします。次の5年も楽しみだと思っていますよ。

山田:「人と人との繋がり」という言葉に非常に共感しつつも、やはり行政という立場になると、この人が好きだからという理由では選びづらいなとも思ってるんですけど、そういう観点ではなにかご意見はありますか?

仲田:そうですね。いわゆる社会起業家と呼ばれてる皆さんって、手がけてる社会課題も領域も全然違うと思うんですよ。そんな中で中国経産局が今やっていることは、「輪」作りなんですね。
多様なスタートアップがいらっしゃる中で、色々な問題に対処できるよう手伝わせてくれっていう意味で、人と人との出会い、組織と組織の出会いが生まれるような「輪」作りをしています。

「変わることによるリスク」と「変わらないことによるリスク」のどちらをとるか?

山田:最後に、この1年でこうなったらいいなと思ってることを教えていただけますか?

新田:北海道から沖縄まで毎週飛び回ってますが、まだ点と点が繋がっていなくてまだら模様なんですね。だから、これが1本の線のように繋がり始めていったらなと思っています。最後に僕からの問題提起なんですが、実は「社会課題の解決」という言葉が嫌いなんです。「課題の解決」では共感がないんです。「みんなでこういう未来にしたい」というビジョンを共感するから繋がるんです。

仲田:新田さんがおっしゃったように、「こういう世界になったらいいよね」っていう理想の状態から「じゃあ、今、何をしていくべきなのか」についてみんなで考えて、一歩ずつ実践していくっていうことに他ならないと僕も感じています。
行政の立場で実践してみて、「前例を踏襲していた方がリスクは少ない」とか「新しいことは仕事が増えて大変だ」と行政の皆さんが感じる部分もあるかもしれないということを感じました。社会課題解決を目指している人や組織をどうやって支援していくかというのは、実は行政自身が頭を悩ませていて、 その町やその社会にとっての最適解を導き出さなければならないなと思うんですよね。そのために、場合によっては新しいことに取り組んで、我々行政もリスクをとって行動していかなければならない。 

やっぱり変わらないことにもリスクはありますよね。世の中は変わってるのに、行政が変わってなかったら、最後に割りを食うのは市民の皆さんであり、会社さんであり、そこに、その地域に生きている人たちです。
変わっていくリスクは、場合によっては失敗することがあるかもしれないですが、それは、チャレンジをした結果のポジティブな失敗です。じゃあどっちを取りますか?というのを行政の皆さんへの問いかけとしたいと思います。我々、J-Startup WESTはこんな風に皆さんのことを応援してますよという進捗のご報告ができるように、我々も頑張ります。

古里:やはり、1年後報告したいところは今の取り組みの結果ですね。その取り組みで地域がどう変わって、少しでもインパクトを与えられたのかどうかっていうのをご報告したいです。北海道コンパッションの取り組み、新しいソーシャル領域に対するお金の供給についてもご報告したいなと思っています。

山田:ありがとうございます。ご登壇いただいた皆さん、そして聴講いただいた皆さん、誠にありがとうございました。 
それぞれの立場からの考えを聞き、ソーシャルセクターはこれからはどうしていくべきかについての考えを深められたかと思います。本日はありがとうございました!!

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