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人口の約半分が移住者!?写真のまち「東川町」がここまで愛される理由を移住フェアで聞いてきました

美麗な山々、美味しい水、思わず写真が撮りたくなる風景のあるまちとして知られる北海道上川郡東川町。この東川町に移住し、夫の轡田芳範さんと共にスペシャルティコーヒー専門店「ヨシノリコーヒー」を起業した轡田紗世さんは、起業後8年間の軌跡を『田んぼの中のコーヒー豆屋: 東川町で起きた八年間の奇跡』という書籍にまとめました。代官山で行われた東川町による移住フェア『東川と、』では、この書籍の発売記念トークライブを行い、ご自身の東川町での暮らしについてもお話いただきました。本記事ではその一部を編集し、お届けします。(文・一部写真/QUMZINE編集部 永井公成)

2022年2月19日に代官山ヒルサイドテラス・アネックスA棟で行われた東川町への移住希望者向けイベント「東川と、」では、東川町にまつわるトークイベントや、東川町の魅力を伝えるパネルの展示、木材を活用した商品をはじめとした特産品の販売がされていました。

轡田紗世さんと一緒にトークイベントを盛り上げたのは長野県立大学准教授の中村稔彦さん。2022年4月に自著である『攻める自治体「東川町」 地域活性化の実践モデル』を出版する際、前年11月に東川町を訪れ、役場の方に連れていってもらったのが「ヨシノリコーヒー」だったそうです。その際にはじめて紗世さんと話し、紗世さんから「東川町に移住し、何度も移住説明会で説明する機会があったので、それらをまとめた本を出したい」という話を聞いたとのこと。中村さんは驚きながらも、東川町を住民目線でとらえた本を読んでみたいと思い、出版社である新評論の社長に提案したところ、快諾されたことからこの本の出版に至ったそうです。

トークイベントは①東川町の紹介、②東川町への移住、③コーヒーの3つをトークテーマとして進んでいきました。

東川町では写真甲子園も開催

東川町は旭川市のすぐ隣に位置し、北海道最高峰である大雪山旭岳のふもとにある人口約8600人の町で、豊かな自然が四季折々の表情を見せてくれます。中村さんによると、一度行ってみると「また行きたい」と思うような景色が見られるそう。

東川町の特徴として、鉄道、国道、上水道がないということが挙げられます。しかし、上水道がないことは大きな問題になっていません。旭岳の周辺に雨や雪として降った水が、地中深くにしみ込み、50年くらいかけて自然にろ過されて伏流水としてたまっていき、これを住民の人はくみ上げて生活用水として使っているからです。紗世さんによれば、この水とコーヒーも相性が良いそうで、東川町の水で入れたヨシノリコーヒーのコーヒーはまろやかに飲むことができるとの感想もあるそうです。また、東川町のブランド米として「ななつほし」と「ゆめぴりか」があり、美味しい水があるからこそそれを使った美味しいお米もできるとお話しされていました。また、町内では「大雪旭岳源水」と呼ばれるミネラルウォーターも採水されています。この水は環境省の名水百選にも選ばれており、名水百選の選抜総選挙でも第3位に選ばれているとのことです。

東川町は写真の町としても有名で、1985年には「写真の町」を、2014年には「写真文化首都」を宣言しています。自然豊かで写真映えするところも多いことに加え、町を挙げて行う「東川町国際写真フェスティバル」や全国500以降の高校が参加する全国高等学校写真選手権大会(=通称「写真甲子園」)など様々な写真に関するイベントが東川町で開催され、国内外からたくさんの人が訪れているとのこと。これにより交流人口だけでなく関係人口も増え、認知度が一気に上がりました。また、写真甲子園は『写真甲子園 0.5秒の夏』として映画や小説にもなったそうで、紗世さんも写真甲子園に出場した東京チームのホームステイ先の女将さん役として出演されました。

中村さんによれば、文化で町おこしをすることは自治体の知名度や認知度をアップさせるだけでなく、住民がその町を好きになり、誇りに思うようになるという意味でも非常に重要な政策であるといいます。定住人口の維持にもなるほか、Iターン、Uターンなど、都会から来る人にとっても有効な取り組みとなり、今人口が増えているのはそうした取り組みにも要因があると考えられるそうです。

東川町の充実した定住政策

中村さんは子育て支援政策と定住政策も東川町の大きな魅力だといいます。

まず、子育て支援政策として、誰もが安心して出産・子育てができるよう、妊娠期からお子さんが大学生になるまで切れ目のない政策が展開されています。
不妊治療の全額助成や出産前後のごはんづくりのサポート、運転が不安なときに利用するタクシー料金の一部助成、子育ての仲間づくりのための子育てカフェクーポンなど様々な支援策があります。紗世さんはご自身が子育てされた時からさらにサービスが充実したと話していました。

中村さんのゼミ合宿で東川町を訪れた際に、学生が「こういう地域で子育てしたい。東川町はすごいな」と話していたそうで、参加したみなさんがすごく関心をもっていたとのことです。

定住政策も移住直後に東川米を5kgプレゼントする「welcome事業」にはじまり、規定に沿った”写真映えする住宅”を建てた際の助成金などさまざまな支援事業を行っています。

また事業者向けの支援事業として、新規分野の事業を行う際の費用の3分の1(上限100万円)を助成する補助金や、店舗のリフォームにかかる費用の一部を助成するものなどがあります。中村さんによると、種類が多く上限額が非常に高いことが東川町の特徴だといいます。国の地方創成系の交付金は個人事業主が対象外になっており、自治体にもそのための政策がほとんどないのですが、東川町では2003年から2021年度までに139件の制度の利用がありました。これが町の活気にもつながっているとのことです。

紗世さんは、移住を考えているなら、「まずは東川町役場の方へウェブサイトから問い合わせると親切に教えてくれます」と補足されていました。

轡田さんご夫婦が旭川市から東川町へ移住したのは、支援策があるため子育てがしやすいこと、東川町の水とコーヒーの相性が良かったこと、そして、ロケーションが良い売り地を見つけたことが理由だそうです。実際に住んでみてよかったこととしては、人との出会い、自然豊かな開放感あふれる空間、マイカー通勤による制限のない移動を挙げました。広々とした土地に住んでいることで趣味のカラオケを楽しむにも不自由しないそうです。一方で、大変だったということについては、マイカー以外の交通の便が悪いこと、田んぼの真ん中に住んでいるため虫やカエルが出ること、除雪に半日以上かかることを挙げました。

地域に根差すヨシノリコーヒー

続いて、話はヨシノリコーヒーで販売されているコーヒーに移りました。
ヨシノリコーヒーはスペシャルティコーヒーの専門店ですが、紗世さんによれば、スペシャルティコーヒーとは、「消費者がおいしいと評価している、満足するコーヒーであること」。風味の素晴らしいコーヒーのおいしさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、コーヒーの後味が甘さの感覚で消えていくということだそうです。コーヒーのグレードでスペシャルティコーヒーは上位7%に位置し、これはよく知られているブルーマウンテンのすぐ下に位置付けられているとのことです。中村さんも、一度このコーヒーを飲むと他のコーヒーはもう飲みたくないという感想をお話しされていました。

ヨシノリコーヒーが地域に根差したお店になった理由について、紗世さんによれば、人と人とのコミュニケーションや、そのための空間を作るということが大事だといいます。これまでコミュニケーションにコミットすることや、その方々と交流することをすごく大事にしてきたそうです。また、地域に根付く企業になるためには、ホスピタリティが大事といいます。コーヒーを媒体として話を聞いたり、コミュニケーションの場所を提供することで皆さんが必要とする状況になっていると感じているので今後とも続けていきたいと話しました。

ご登壇されたお二人は非常に話が上手で、大いに盛り上がっていました。また、40人ほど用意された客席もすべて埋まり、大盛況のトークイベントとなりました。

イベント会場には轡田芳範さん自らがカウンターに立ち、ヨシノリコーヒーの試飲の提供やコーヒーの販売をされていました。


筆者もコーヒーの試飲をさせていただいたのですが、香りが深く、後味にまったく雑味がなくて飲みやすい味わいでした。この雑味のなさにはもはや驚きすら感じます。ちなみに、今もこのイベントで販売されていたコーヒーを飲みながら記事を編集していますが、やはりおいしいですね。今後の東川町の展開にも注目していきたいと思いました。

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