見出し画像

北海道型コレクティブ・インパクトへの挑戦~多様なセクターによる社会課題〜|NoMaps2023カンファレンスレポート

企業や行政、NPO等の多様な主体が一堂に会し、強みを活かし合う、コレクティブ・インパクトが注目されています。しかし、分散型という地理特性を有し、人口減少が進む北海道において、インパクトを生み出していくことは容易ではありません。
本記事では、2023年9月14日、NoMaps2023で開催されたカンファレンス「北海道型コレクティブ・インパクトへの挑戦~多様なセクターによる社会課題〜」のレポートをお届けします。
官民連携型のプロジェクトを推進する北海道上川町と株式会社ユーザベース NewsPicks 、「道東」というあたらしい輪郭・カルチャーセットを創出しようとする一般社団法人ドット道東の取り組みから、北海道ならではのコレクティブ・インパクトへのアプローチを考えます。(文/土肥紗綾、写真/永井公成)


「コレクティブ・インパクト」とは

開始前から熱気に包まれた超満員の会場。カンファレンスのテーマでもある「コレクティブ・インパクト」は昨今注目を集めており、全国の至るところで実践が増えています。本カンファレンスでは、北海道で行われている実際の取組事例をもとにディスカッションがおこなわれました。
北海道は面積が広大で人口が分散しています。1つのエリアだけで地域課題を解決していくことが難しい中で、北海道に合ったコレクティブ・インパクトの形とはどのようなものなのでしょうか?

ここで「コレクティブ・インパクト」の意味について確認しておきましょう。

コレクティブ・インパクトとは、「特定の社会課題に対して、 ひとつの組織の力で解決しようとするのではなく、行政、企業、NPO、基金、市民などがセクターを越え、互いに強みやノウハウを持ち寄って、同時に社会課題に対する働きかけを行うことで課題解決や大規模な社会変革を目指すアプローチ」です。

https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/27077/00314284/ci.cleaned.pdf

まずは本日のモデレーターとゲストの皆さんからの自己紹介が行われました。

久保 匠(以下、久保):モデレーターを務めさせていただきます久保匠と申します。
北海道を拠点に全国のソーシャルビジネスやNPO等のコンサルタントとして、事業づくりや資金調達の支援をしております。これだけではなく、社会課題解決にに取り組んでいるプレイヤーに対して投資・融資・助成金などの資金を提供をする業務や、セクター間の連携を生み出してソーシャルインパクトを目指していく仕事をしています。

久保 匠氏(ソーシャルセクターパートナー・すくらむ 代表)

「コレクティブ・インパクト」についても少しお話しさせてください。

コレクティブ・インパクトは、多様なプレイヤーが集い、解決すべき共有の社会課題をしっかりと定義して取り組んでいくという点が重要です。いろんな人たちが集まって活動しているだけではなく、それぞれがメリット/デメリットを部分的に共有しているものでもありません。ともに解決する社会課題を明確に定義して、取組による成果を評価するシステムを共有します。それぞれがKPIを独自に設計するのではなく、きちんと全員で生み出したい社会的インパクトを定義して進めていき、お互いの強みを生かし合いながら補完し合うことが重要です。そしてステークホルダー間のコミュニケーションを促し、活動を支えていく組織があるのが望ましい。
もちろん、今言ったことを全部やらなければコレクティブ・インパクトではないというわけではないんですが、こういった要素が含まれてるものが事例としては多いですね。

三谷 航平(以下、三谷):北海道上川町役場 東京事務所ゼネラルマネージャーの三谷と申します。
上川町は人口3,000人ほどの小さい町なんですけど、町村単位で東京に事務所を持ってるのは異例なんです。その異例の事務所で何をやってるかというと、上川町に面白い人を連れてくるってことをやってます。東京事務所にいて霞が関に通ってるとかではなくて、上川町に面白い人を連れてきて、来た人が地域と関わり事業化してビジネスにするというところにフォーカスを当ててやっています。

三谷 航平氏(北海道上川町役場 東京事務所セネラルマネージャー)

小田切 香澄(以下、小田切):今日はお招きいただきありがとうございます。小田切と申します。私が所属しているNewsPicksは北海道上川町と2021年に包括連携協定を締結させていただいて、今、一緒に取り組みをしているんです。私はその取り組みの中で、地域と都市の人たちを繋いでいくコミュニティのプロデュースやそれに関する事業開発をしています。

小田切 香澄氏(株式会社ユーザベース NewsPicks Creations)

中西 拓郎(以下、中西):一般社団法人ドット道東 代表理事の中西拓郎と申します。今日はよろしくお願いします。
今日は今自分たちが取り組んでいる、草の根というかボトムアップな事業や活動の紹介をしてけたらなと思っています。
一般社団法人ドット道東は2019年に作ったまだ若い組織なんですけども、メンバーは釧路・帯広などなど結構バラバラな地域に住んでいて、フルリモートで仕事を行なっているちょっと変わった組織です。僕は元々、編集とか企画といったことをフリーランスとしてやってまして、そういうクリエイティブの仕事をしている仲間と一緒に作った組織がドット道東です。

中西 拓郎氏(一般社団法人ドット道東 代表理事)

道東という地域ブランドが資産になるために

中西:道東ってかなり面積は広いんですけど、町や人は点在していて、町から町への移動に2時間半かかるみたいな距離感です。このまま人口が減少していくと暗い未来が待ってるかもしれないっていう中で、楽しく暮らしてみんながやりたいことをやれる地域にしていきたいなと思っています。 そこで、この点在している地域を緩やかに繋いでいけたら、相乗効果や域内循環が高められるのではと考えていて、点在した地域に架け橋を作るために事業を行っています。道東というアイデンティティや文化をつくる中で、人の繋がり、情報、地域ブランドが資産として高まっていく。そんなカルチャーアセットを元に収益事業をおこなっています。

上川町とNewsPicksの共創コミュニティで、「感動人口、1億人へ」を目指す

三谷:上川町は「世界に誇る山岳リゾートタウン」というビジョンを定めています。とにかく新しい建物を建てるというわけではなくて、上川町の大切な自然を分かち合い、育み、自然と共にあることで心豊かになっていくというところを目指しています。観光客も住民も関係なく、上川町と関わりのある人が思わず自慢したくなるような自然豊かな町づくりを進めています。
ちなみに、観光客は年間200万人近くくらい来ていたこともありまして、国立公園を有してるので面積もめちゃくちゃ広いです。とは言え、どの地域もそうなんですけどものすごく人口減少しております。だからといって定住人口を増やそうという訳ではなくて、地域内外のあらゆる人たちと手を組んで、新しい町をつくっていきたいなと思っています。

官民共創に積極的に取り組んでまして、東京の企業さんと連携協定を結んで、社会課題を一緒に解決していくっていうプロジェクトをやってます。具体的なところで言うと、上川町には自然はあるのにアウトドアブランドショップがないので、コロンビアスポーツウェアジャパンに直営店を出していただいたりしています。他には、コロンビアさんと協力して役場のユニフォームとしてアウトドアウェアを使わせていただいたり、ふるさと納税の商品開発を一緒にやらせていただいたりしています。他にも、デザイン会社のGoodpatchさんから職員の方を1名派遣していただいて、デザイン思考を用いた行政サービス作りのプロジェクトを進めていただいたりしています。

僕の在籍する上川町東京事務所では小田切さんにも関わってもらっています。うまく外の力を活用しながら、まちづくりを進めているというところが上川町の特徴かなと思います。

小田切:NewsPicksのユーザーは全国に800万人ほどで首都圏のビジネスパーソンが多いです。 上川町とは、関係人口の創出や経済圏活性化を目的に掲げて、都市圏にいる方々と上川町をはじめとした日本全国の地域にいる方をつなげていく取り組みをしていこうということで包括連携協定を2021年に締結しました。具体的には、「オトナ本気ラボ」という共創コミュニティを作って、上川町やコミュニティ参加者の方が取り組みたいテーマに対して、例えばモニターツアーやミートアップなどを組むなどしています。

これをきっかけとして、上川町で実際事業を立ち上げる人が現れて事業が生まれていくといったサイクルを創っています。コミュニティのミッションとしては「感動人口、1億人へ」を掲げていまして、さきほど三谷さんも言ってた通り、人口が減ることをどうにかするというよりは、もっともっと面白い新しいまちづくりをしたいっていうところを大事にしています。

人と人は勝手に知り合わないからその間をデザインする

ドット道東が取り組む道東の事例、上川町とNewsPicksの事例のそれぞれ異なるアプローチの事例が紹介されました。ここからクロストークが始まります。

久保:まず1つ目のテーマからいきましょう。それぞれの取り組みの中で、多様なステークホルダーが連携してクリエイティブな取り組みを進められていると思うんですけど、どうやってステークホルダーの関係性を紡いで連携を生み出しているのでしょうか?

三谷:人と人って勝手に知り合わないなって思っていまして、人と人が知り合うその間には必ず人が入ってるはずだと思うんです。上川町の場合は僕が東京事務所にいるので、僕が人や組織との間に入って、そのきっかけやつながりを最大化できるように取り組んでいます。
その時は、対話を大切にして、上川町に来てもらって色々な人を巻き込んでいくようなデザインをすることを意識しています。

中西:連携される企業にとってのメリットがあって、それを上川町と共有できるというところがすごく気になっています。それを北海道内のいろんな町が踏襲できたらとも思うんですけど、多分、三谷さんみたいな突破力ある人がキーになってるのかなとも思うんですよね。

三谷:自分がやった仕事の手触り感を感じにくい企業さんがすごく多いのかなと考えています。それだけ大きな企業であるということの裏返しでもあるんですけど。
上川町であれば、自分がやりたいことを体現できて、自分が町を変えたんだという手触りも感じられるというのが魅力的なんじゃないでしょうか。でもこれって、上川町じゃなくてもできるはずで、そこの見せ方やデザインの仕方かなと思ってるって感じですかね。

小田切:やっぱり「どんどん新しいことやっていこう」っていうスタンスと、観光・森林・農業といった様々なアセットがある中でまだ手がつけられてない“余白”があるものを活用していくというのが大切なのかなと思います。その余白を「なんか面白そうだな」って思う企業と町が出会って、何か始まっていくと言いますか。余白を面白がれる人ですかね。

三谷:うちは町長が若い人にどんどん任せよう、とりあえず打席に立たせようっていう人ですね。

久保:ドット道東さんも特徴的ですよね。距離的に繋がりたくても繋がれないとかあるんじゃないでしょうか?

中西:そうですね。共通言語みたいなものがすごく必要だなと思っています。三谷さんが「人と人だよ」ってお話されていたように、「企業と企業」「企業と自治体」といった関係性じゃなくて、担当の方とか社長とか、 なんかそういう人との繋がりがすごく大事だなと思っています。
何かをすること自体が目的ではなくて、どういうことにアプローチしたいのかといった部分に一緒に取り組んでいるなと思っています。偉そうな言い方に聞こえてしまうかもしれないんですけど、今、情熱のある人と一緒に仕事をさせていただいてるなと思っていて、肩書ではなくて共感してくれる人と一緒に今仕事してるなっていう感覚があります。

小田切:出会う時って、例えば今日この場の一言をきっかけにみたいなこともありますよね。

選択肢がたくさんある状態を作り出すこと

久保:次のテーマ「ステークホルダーと連携して実現したいインパクト」に移りましょう。コレクティブインパクトって、例えば「子供の貧困」とか「福祉の方の課題」といった明確な課題があって、そこに向けて逆算して解決していくってアプローチが多かったと思うんです。今日ご紹介いただいた事例は、そうじゃない部分がたくさんあるなと思うんですが、どうやって課題設定や解決を進めていこうとされてるんでしょうか?

三谷:今は官民共創をやっていますけども、正直言ってこれをやらなくても町は続いていくんですよね。でも、課題はあるけど町は存続している状況の中で、町にいる若い子たちが「これできないけどしょうがないな。だって、人いないもん」ってなるのが一番嫌なんです。僕らはビジョンの中で、「上川町に関わるあらゆる人たちのエンゲージメントの最適化」を掲げてるんですけど、その最適化っていうのは「選択肢がたくさんあること」だと認識しています。例えば、教育・環境・住まい・コミュニティ、それから働き方も含めて、課題に対し直面した時に、企業や自治体さらには住んでる人たちが「この課題はこのメンバーで取り組んだら解決できるかもしれない」となるのが理想というか、実現したい未来なんですよね。

久保:企業としてはそこにコミットしていく理由やどんな役割を果たしたいかというところを小田切さんにお答えいただいてもいいでしょうか?

小田切:そうですね。企業の立場で言うと、表向きは関係人口創出という事例を作っていくということだと思います。でも結局、一緒にやる人が熱量を持っていないと何も生まれないなと思っています。
オトナ本気ラボのようなコミュニティをプロデュースするっていうことはすごく好きでやってるんですけど、なんでやるのかと言うと、「こんなことやりたい」って思ってる人たちと出会えて、それをこうやり続けたその先に自己実現みたいなものがいっぱい起きていくといったことができるといいなと思います。しかもそれが結果として地域に反映されていくとなればすごく良い社会ができるんじゃないかと思うんですよね。

クロストークの後はくじ引きのようにランダムにオーディエンスをあてて、議論を活発化させるユニークな取り組みもされていました。
質疑応答、ゲストの皆さんからのコメントを経て、イベントは大盛況で終了しました。

北海道型コレクティブ・インパクトに関わる人々の熱意と今後の可能性を強く感じさせる印象的なカンファレンスでした。

ファシリテーショングラフィック:溝渕清彦氏(EPO北海道)

カンファレンス概要と登壇者のみなさんのプロフィールはこちらからご覧ください。

QUMZINEを運営するフィラメントの公式ホームページでは、他にもたくさん新規事業の事例やノウハウを紹介しています。ぜひご覧ください!

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

QUMZINEの最新情報は株式会社フィラメント公式Twitterでお届けしています!