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NTT東日本Presents睡眠のエンタメ化ースリープテックがもたらす未来像|NoMaps2023カンファレンスレポート

日本の社会課題となっている睡眠不足や睡眠障害。その経済損失額は15兆円を超え、世界最下位に位置しています。NTT東日本グループは、スリープテックの分野において睡眠をスコア化してその改善を促すだけではなく、新たなアプローチとして「睡眠のエンタメ化」を掲げて事業開発を行っています。また、企業向けの睡眠コミュニティ「ZAKONE」を立ち上げ、睡眠に関心を持つ個人と企業を結びつけて知識や情報の共有を促進しているほか、生演奏の中で眠る宿泊型音楽イベントの開催など、睡眠市場自体を拡大することにも挑戦しています。
本記事では、2023年9月15日、NoMaps2023で開催されたカンファレンス「NTT東日本Presents睡眠のエンタメ化ースリープテックがもたらす未来像」のレポートをお届けします。(文、写真/永井公成)


まずは本日のモデレーターとゲストの皆さんからの自己紹介が行われました。

内藤輝章(以下、内藤):北海道大学の事務職員をしております、内藤です。普段は北海道大学の広報をしていて、その流れでNoMaps SOCIALの会場の運営組織のメンバーにもなっています。こちらのセッションのモデレーターをさせていただきます。よろしくお願いします。

内藤 輝章氏(北海道大学 学務部学務企画課大学院教育改革推進室)

尾形哲平(以下、尾形):NTT東日本の尾形と申します。スリープテック事業、企業向けの睡眠コミュニティ「ZAKONE」のディレクターとして、新規プロジェクトの企画や案件のディレクション、睡眠イベントの開催など事業をリードしています。事業開発がメイン業務なので、自分自身も事業をやらないと説得力がないということもあり、社外副業でビンテージ革靴のショップも運営しています。今後は山形の肉そば屋さんも始めたいと思っています。宜しくお願いします。

尾形 哲平氏(東日本電信電話株式会社 ビジネスイノベーション本部スリープテック事業チーム)

奥平壮臨(以下、奥平):エステー株式会社の奥平と申します。森の空気を研究して生活に活かすという事業を担当しています。そのプロジェクトの中で、「日本一空気のキレイな森を探そう」という企画を立てて、国立研究開発法人の森林総合研究所と共同で、日本中の森の空気を調べました。具体的には、2年かけて66か所の森を回って、森の空気をビニール袋に詰めて、その成分を分析する事を繰り返しました。その結果、今回の会場は北海道ですが、まさに北海道のトドマツという木が生えている森の空気が日本で一番きれいだったんです。きれいの基準はいろいろありますが、特にNOxと呼ばれる窒素酸化物の濃度が日本で最も低かったんですね。トドマツは空気をきれいにする働きが強い事が分かりましたので、道東の釧路にプラントをたてて、地元(株)北都という林業会社にトドマツの枝葉を集めてもらい、空気浄化成分を抽出して商品にするという事業をやっています。

奥平 壮臨氏(エステー株式会社 新規事業開発室)

内藤:日本で他にトドマツが生えているエリアってあるんですか?

奥平:トドマツはほぼ北海道の固有種で、世界で北海道にしか生えていません。高度経済成長期に国策として本州にはスギ・ヒノキを植えたのですが、北海道は寒く、スギの生育が遅かったため、北海道でもともと生えていた寒さに強いトドマツを植樹しました。そのため、北海道内の国有林の多くはトドマツの森となっています。最近では、空気浄化以外の機能性を調べれば調べるほどトドマツがすごいということがわかってきています。その機能性の一つとして、トドマツの香りによる睡眠への効果の検証をZAKONEを通してNTT東日本さんにデータ検証いただいているところです。

澤邊元太(以下、澤邊):コネルの澤邊と申します。もともと小中高と新卒2年目くらいまで北海道で暮らしていました。広告代理店で広告制作や企画やプロデュースの仕事をしていました。最近はKonelで下北沢のエリア開発のブランディングだったり、クリエイティブ切り口から未来のビジョン作りをデベロッパーさんと一緒にやっています。テクノロジー×クリエイティブというところを強めにしている会社でもあるので、テクノロジーをどういう風に未来に実装していくか、またどうデザインしていくか、ブランディングしていくかというところをメインにしています。

澤邊 元太氏(株式会社コネル Producer / Planner)

睡眠の企業コミュニティ「ZAKONE」とは?

内藤:ありがとうございます。まずは「ZAKONE」がどのようなことをしているのかについてご説明いただけますか。

尾形:「ZAKONE」は企業向けの睡眠コミュニティです。今は73社、大手からベンチャー、スタートアップ企業も様々な業界から集まっていただいています。スリープテックにこれから参画したい企業からすでに睡眠市場に参入している企業、スポーツチームまで、様々なプレイヤーが参画しています。NTT東日本の大きな収益源である固定電話や固定回線の利用が減っていく中で、新しいビジネスを作っていかなきゃならないということで、社内起業家を育てるプログラムからスリープテック事業が生まれました。事業を進める中で、ZAKONEが生まれました。

「日本は世界一睡眠時間が短い」という調査も出ていますが、それをどう解決するかについて、これまで睡眠をスコアリングして改善策を提示するサービスを作ってきました。しかしそれだけでは改善策を実施してくれないという現状があります。だから課題が解決しない。ではどんなアプローチで行くべきかを考えたときに、面白がるというか、睡眠自体に新しい価値を付けていくような取り組みをしないとこの社会課題は解決できないのではないかということになりました。睡眠市場自体を広げることを目的にしたときに、コミュニティを作るのは有効ではないかと思っています。

内藤:正しさだけではなくて楽しさ推しで行くということですね。

寝落ち体験イベントを実施

尾形:「あなたの昨夜の睡眠は50点だから70点にするために2時間早く寝てください」では行動変容は生まれない。香りや音楽などを使うことでどう睡眠が変化するのかの検証をし、結果を世の中に伝えることや、あらゆる業界との掛け算によって睡眠体験の新しい価値を作るといった取り組みをどんどん増やしていきたいと思っています。例えば、生演奏の中寝落ちするという宿泊体験イベント「ZZZN(ズズズン)- LISTEN AND SLEEP -」もその一つです。

内藤:このイベントは実際に旅館で行われたとお聞きしています。最初にお聞きした時には、そもそもそんなイベントが成立するのかと思っていました。他にもいろいろな仕掛けがあったとお聞きしていますが、どんな仕掛けがあったんですか?

尾形:睡眠データをこのエンタメに活用できないかと相談していたときに、データを照明演出に活用するというアイデアが出ました。万歩計のようなデバイス(ブレインスリープコイン)をパジャマのゴムにとりつけ、そのデータを照明に反映するように設計されています。睡眠状態に合わせて明滅したり、色温度が変化したり。寝たら消える設計になっています。

澤邊:取得データの一つをRGBの要素に落として、身体の動きがなくなると照明も落ちていくアルゴリズムにしました。人間が一番心地いいアルゴリズムを検証して反映させています。

尾形:奥平さんが関わっているところでは具体的なエピソードはありますか?

奥平:睡眠課題は何かソリューション一発で解決することってないんですよね。音楽や照明や空間の環境といった様々なアプローチがある中で、僕らが得意なのは香りの分野なので、この分野で睡眠課題に取り組めないかと考えました。先ほどのトドマツですが、花粉症にすごく効くんです。その機能を使って、トドマツの香りを用いた花粉症対策製品を発売しているのですが、その商品を使ってくれた人から、花粉症の症状が良くなっただけでなく、トドマツの香りをかぐことでよく眠れたとの声もすごくありました。これだけ多くの声が集まるなら、本当に眠れる要素があるんじゃないかということで、睡眠データを取得したいと考えていたら、NTT東日本さんからZAKONEが立ち上がるという話を聞いて、そのコミュニティーの中の企業が香りによる睡眠の効果を可視化する事が可能ではないか、とのことだったので、ZAKONEへ加入することに決めました。

ZAKONEへ加入した背景

内藤:なるほど。次はZAKONEが立ち上がった背景や思いについてそれぞれお伺いしたいです。

尾形:最初に立ち上げたときは睡眠を可視化したり、可視化した結果から改善ソリューションを作れば事業は作れるんじゃないかと思っていたのですが、そんな単純なものではありませんでした。うまくいかないし、僕らだけでやっても事業もスケールしないし、インパクトも弱い。そこでどうするかを考えたときに、睡眠市場自体をいかに広げるかという話になりました。特定の領域でしか参加できない市場だったりするので、睡眠医学の知見とか、検証プロトコルを策定したりとか、デバイス選定からデータ取得をサポートしたり。そういった複数のアセットを用意することで、睡眠事業へ参入する企業を増やす。そのきっかけとしてこのコミュニティを作りました。

奥平:日用品界隈では、睡眠市場はすごく可能性があると思うけど未だにどこも成功していない。でも潜在ニーズはある。なぜ市場ができないかということを考えると、多分一社が自社の利益を上げるためにやっているからうまくいかないんだろうなと思います。このコミュニティでは「睡眠課題を何とかしたい」と日々考えているいろいろな人たちに会えます。いろいろな切り口で市場を作るにはどうしたらいいのかとか、お客さんは本当は何を望んでいるのか、本当はよく眠りたいと思っているのではなく次の日元気に活動したいんじゃないかとか、本当に皆が求めていることは何かをZAKONEで探しています。パッケージに「良く寝れる」って書いてもなかなか売れないし、睡眠スコアの改善点を示してもユーザーは動かない。ということは、「寝ること」はニーズではないんじゃないかな?とか。

澤邊:ZAKONE加入のきっかけは「sasayaki lullaby(ささやきララバイ)」という企画でした。洋楽を大人の子守歌としてカバーすればもっといろいろな人に洋楽を聴いてもらえるんじゃないかという入眠プレイリストです。そこでNTT東日本さんから睡眠への効果を検証してみませんかとお誘いいただき、検証プロジェクトからZAKONEにJOINしました睡眠事業はまだまだ未開の市場で、今から僕らがやることって全部新しいことなんですよ。まだ世にないものをいろんな企業のスペシャリストの方たちと一緒に作れるというのがすごく楽しいと感じています。そして、皆さんあんまり企業っぽくないんです。自分たちのアセットを持ち寄って睡眠という市場を盛り上げる感じで。ビジネスであることを忘れちゃうくらい楽しいんですよね。

奥平:今の話を聞いて思ったんですが、理想のマーケティングは難しいこと考えなくても、めっちゃ楽しいということをしてたらいつの間にか睡眠の質が良くなってるってことなんじゃないかなと。それが一番無理なく続けられて皆健康になることなんじゃないかと思いました。面白くしてくれる人はすごく大事なんだと思います。

これからのZAKONE

内藤:これからZAKONEはどんな方向に行くのかについて、お聞かせいただけますか。

尾形:やはり睡眠市場自体をどう拡大させるかというところですね。このZAKONEのコミュニティの中からどんどんビジネスが生まれていくようにしたいです。企業同士のつながりは作れましたが、行政がZAKONEに入っていない。自治体のプロジェクトが動いてくると、もう少し国に対してもアプローチできると思っています。睡眠に対する政策もまだ弱い。国を動かすくらいのプロジェクトも作っていけたらいいなと思います。

内藤:自治体さんが入ってきてくれてそこで実証実験ができたり、住んでいる方に効果が出てきて、地域活性につながったりしたらいいですね。奥平さんはいかがですか。

奥平:睡眠をエンタメ化しつつZAKONEと連携して、北海道のトドマツをはじめとした日本の固有種の木で世界の睡眠の課題を解決できたらと考えています。他にも例えば熊野古道のヒノキの抗菌効果が高かったりとかするので、日本中の森をもっと調べれば眠っている自然の力をもっと商品に活かせるかもしれません。それらが睡眠の質を高めていくことになれば、「森の香り」が日本の新しい武器としてグローバル展開もできるのではないかと思っています。

内藤:日本としてのブランディングもできそうですね。澤邊さんはいかがですか。

澤邊:つい「明日のために寝なきゃいけない」と思ってしまいがちなんですよね。でも「しなくちゃいけない」となると、したくなくなっちゃうと思うんですよ。例えば、子供の頃クリスマスイブにサンタさんが来るから寝るのが楽しみになってたじゃないですか。睡眠の価値をこのコミュニティで転換できれば新しい価値を作ることになるので、それをやってみたいと思っています。

内藤:なるほど。睡眠でこんなに話が広がるんですね。これからもいろんなことができそうだなと思いながら聞いていました。本日はありがとうございました。
チ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)にNoMaps WELLNESSの会場があるのですが、そこにZAKONEの展示があります。実際に眠る体験もできますので、ぜひ見てみてください。

カンファレンス概要と登壇者のみなさんのプロフィールはこちらからご覧ください。

チ・カ・ホでの展示

編集部はこのセッションの後、チ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)で出展されていたZAKONEのブースを見学してきました。実際にセッションでお話しされていたイベントの動画を視聴したり、そこで使われた衣服につけて眠りを測定するデバイスや照明の展示を見たりすることができました。

スリープテックという新しい市場に興味を持った方が多く立ち止まっていましたよ。

こちらが「ブレインスリープコイン」。
パジャマに装着して眠ることで、睡眠の質をアプリで確認できます。

睡眠の質をアプリで見るだけでは面白くないということで、アーティストらが生演奏してその前で寝落ちするイベントを行ったときには、このデバイスで得られるバイタル情報を照明と連動させ、参加者が演奏を聴いてリラックスし、まどろんでいくことでだんだんと照明が暗くなり、完全に寝落ちしたら消えるという演出を行いました。赤くぼんやりと光っている音が、イベントで実際に使われた照明です。このデバイスを付けて実際に眠る体験もできました。

「睡眠」という新しい市場に対して、どんな商品やサービスがZAKONEから出てくるのか、楽しみですね!

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尾形 哲平氏(東日本電信電話株式会社 ビジネスイノベーション本部スリープテック事業)と奥平 壮臨氏(エステー株式会社 新規事業開発室)のお二人には、QUMZINEを運営するフィラメントCEO角勝のCNET連載『事業開発の達人たち』にもご登場いただいています。
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